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MONO代表・土田英生のブログです

2018年11月02日

2つの時間

 姫路にいる。

 ……腰がいたい。
 先日、久しぶりに自分への嫌悪がMAXになってじっとしていたからだ。
 トイレを除けば38時間動かずにいた。
 『動かない鳥』として有名なハシビロコウより動かなかったな。
 やっていたことと言えば『ゴドーとの電話』というアドリブ台本を更新していただけだ。

 色々と待たせている仕事もある。
 本当に申し訳ない。すみません。
 頑張ってやりますので。

 それぞれに連絡をするつもりだけど、今日はまだ無理なので、言い訳の為にこれを書いている。
 
 2つの時間について考えていた。

 人は楽観的にならないと生きていられない。
 例えば南海トラフ地震が来ると言われて久しいが、プレートの軋みを考えばいつかは必ず地震は起こるのだ。
 今だって少しずつ動いているはずで、それがある限界を越えた時に地震はやってくる。

 けれど明日起こるかと問われれば、多分、ほぼ全員が「起こらない」と考えている。
 だから私たちは暮らせるのだ。
 つまり自分たちの、ある主観の中で「楽観的時間」を生きている。

 個人のことを考えたってそうだ。
 私たちは間違いなく死ぬ。
 ただ、それはきっと明日ではないと思っているから生きられるのだ。
 
 人間はそれぞれに主観の時間を持っている。

 仕事でもこのことが原因で問題が起きる。

 「すぐにやりますね」
 「お願いします」
 答えた方はリミットが2週間くらいだと思っていたとしても、頼んだ方は3日かも知れない。

 この例だと一週間くらした時に揉める。
 
 受けた方はまだ残りが一週間もあるのにどうして怒られるのかと不思議に思う。
 頼んだ方はリミットを過ぎてから4日も待ったのに、どうしてそんなにヘラヘラしてられるのかと信じられない。
 両方とも自分は悪くないと思っているので感情的になってしまう。

 感情や気持ちの問題になるともっと難しい。

 これを埋めるのは難しい。
 埋めるのは「言葉」しかないと思うのだが、この言葉のニュアンスにも違いがある。
 それに思っていることを全て言葉で表すのは不可能だし、受けとる側のリテラシーもあって正確には伝わらないことがほとんどだ。

 主観と主観のズレ。
 チェーホフなんてこればっかり書いている。
 ただ、唯一救いとしてあるのは、それでも許したいとか、共存したいという想いだよね。
 ま、簡単に言えば「相手の立場に立つ」ということだけど、これは本当に難しい。

 今日はこれだけ書くのが精一杯だな。
posted by 土田英生 at 00:19| 兵庫 🌁| 雑記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年10月29日

ゴドーとの電話(3)

しばらくウラジミールは行ったり来たりする。
そして自分から電話をする。

ウラジミール「もしもし」
ゴドー「あれ? もう電話もしないんじゃなかったのか?」
ウラジミール「……冷静に考えたんだよ。いい方法がある」
ゴドー「なんだよ?」
ウラジミール「え? お前もあれだろ? その、こうして電話はしたいんだよな?」
ゴドー「まあな」
ウラジミール「しかも……ゼロではない?」
ゴドー「なにが?」
ウラジミール「お前が駅に来る可能性」
ゴドー「ああ。そんなことはわからないからな」
ウラジミール「だとしたらだ。その、一回、『今から行くよ』と言ってくれないか?」
ゴドー「は?」
ウラジミール「今、お前は来たくない。それはわかってる。だからお前がな『今から行くよ』と言う、そしたら『俺が来なくていいよ』と言う」
ゴドー「なんだそりゃ?」
ウラジミール「そしたら俺はお前がくる気なんだと安心するし、お前も来なくて済むし一石二鳥だろ?」
ゴドー「嘘をつけってことか?」
ウラジミール「嘘っていうなよ。段取りだよ」
ゴドー「そのことになんの意味がある?」
ウラジミール「俺が待たされただけだという、その惨めさから俺は解放される」
ゴドー「行かなくていいんだな?」
ウラジミール「うん」
ゴドー「言うだけでいいんだな?」
ウラジミール「そうだ」
ゴドー「わかったよ。あの……今からさ」
ウラジミール「うん」
ゴドー「そっちへ行くよ」
ウラジミール「本当か?」
ゴドー「いや、本当ではない」
ウラジミール「待てよ! それを言うなよ」
ゴドー「ええ?」
ウラジミール「お前はあくまでも行くと言い続けないと」
ゴドー「だけど実際には俺は行かないんだから」
ウラジミール「……いくら段取りだからって、そんなにあからさまにネタバラシされたら、俺は惨めから解放されるどころか、さらに辛いだろ?」
ゴドー「そうなのか?」
ウラジミール「そういうもんだよ。だからさ、お前はあくまでも来ようとする。そしたら俺がこなくていいと言うから」
ゴドー「わかった」
ウラジミール「ほら」
ゴドー「ああ。あのさ、今から行くよ」
ウラジミール「本当か?」
ゴドー「本当だ」
ウラジミール「来る気になってくれたのか?」
ゴドー「あ、まあ」
ウラジミール「どうして急に?」
ゴドー「いや、それは……なんとなく」
ウラジミール「いや、嬉しいよ。待った甲斐があったよ」
ゴドー「待ってくれ。あの、ほら」
ウラジミール「え?」
ゴドー「俺、本当にはいかないからな」
ウラジミール「……」
ゴドー「え? だろ?」
ウラジミール「だから最後まで言い通してくれよ」
ゴドー「お前がいつまでも言わないから、来なくていいって」
ウラジミール「リアリティだろ?」
ゴドー「もう面倒くさいよ」
ウラジミール「それくらい付き合ってくれたっていいだろ?」
ゴドー「……」
ウラジミール「随分、譲歩した提案なんだから」
ゴドー「ううんんんん……」
ウラジミール「ま、それも嫌ならいいよ」
ゴドー「嫌じゃないけど、だいたい、お前が勝手に待ってるんだからさ」

ウラジミールはため息をつく。

ウラジミール「……そもそもの話になるけど、どうして俺が待ってるのか? 最初はエストラゴンと一緒に待ってた。でも、あいつは別の駅で待つと言い出した。だから俺たちは一人で待つことになった」
ゴドー「ああ」
ウラジミール「知ってるよ。エストラゴンにはお前が待っててくれと言ったんだろ?」
ゴドー「そうだ」
ウラジミール「で、お前はそこに行った」
ゴドー「うん」
ウラジミール「でも、電車には乗らなかった」
ゴドー「ま、ちょっとした諍いもあってな。それで俺は帰ってきた。随分と疲れて帰ってきた。もう誰かと待ち合わせるのは二度とごめんだとすら思ったよ」
ウラジミール「……その時電話くれただろ?」
ゴドー「したな」
ウラジミール「で、お前は言ったんだよ。エストラゴンとは電車には乗っていけない。けど、お前とはこれからも色んな意味で一緒だしなって」
ゴドー「言ったか?」
ウラジミール「言ったよ。だから、だから俺は待ってるんだよ」
ゴドー「待合せしようとは言ってないだろ?」
ウラジミール「そうだけど、あれは、ほら、待合せしてもいいという雰囲気だったよ」
ゴドー「お前は俺のせいで待ってると言いたいのか?」
(続く)

posted by 土田英生 at 20:29| 京都 ☀| 遊び | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ゴドーとの電話(2)

ウラジミールは帰ろうとするが、また戻ってくる。
電話が鳴る。

ウラジミール「もしもし」
ゴドー「まだいるの?」
ウラジミール「……迷ってる」
ゴドー「そっか」
ウラジミール「え? なに? くる気になったのか?」
ゴドー「いや」
ウラジミール「だったらなんで?」
ゴドー「退屈だろうから、楽しい話でもしようと思って」
ウラジミール「あのさ……」
ゴドー「退屈だろ?」
ウラジミール「そりゃそうだよ」
ゴドー「そこは寒くないか?」
ウラジミール「寒いよ」
ゴドー「大丈夫か?」
ウラジミール「なんだよ。なんでそんなに気を使ってくれるんだよ?」
ゴドー「そりゃ心配だからさ」
ウラジミール「……だったら来てくれよ」
ゴドー「出たよ。また、それか? こっちかせっかく心配してやってるのに、どうしてそればかり言うんだよ?」
ウラジミール「だって来てくれたら、電車に乗ってさ、一緒に暖かい場所も行けるんだよ」
ゴドー「……いや、行くのは無理だよ」
ウラジミール「どうして?」
ゴドー「その気になれないからさ」
ウラジミール「だったら電話なんかしてくるなよ」
ゴドー「わかったよ。こっちは心配して電話してやってるのに。そんな風に言うなら電話もしないよ」
ウラジミール「……」
ゴドー「そうするよ。切るよ」
ウラジミール「え? でもさ、くる気になる可能性はどうなんだ?」
ゴドー「何度も言ってるだろ? ゼロじゃないし、そんなことは誰にもわからない。ふと、行きたくなるかもしれないし。でも、お前がそれを聞いてくる度に俺の行く気はどんどんなくなるんだよ」
ウラジミール「じゃ、黙って待ってたらいいのか?」
ゴドー「そう。普通にな」
ウラジミール「普通ってなんだよ?」
ゴドー「だから、お前はそこで楽しんでもらって、で、時々こうして電話でしゃべっていよう」
ウラジミール「……」
ゴドー「お前だって喋るのは嫌いじゃないんだろ? ほら、なんというか、俺とお前はこうして喋ると相性もいいし」
ウラジミール「だけど寒いんだよ、ここ」
ゴドー「なんか着たらどうだ?」
ウラジミール「ないよ、なんにも」
ゴドー「そっか……それは辛いな。風邪ひかないようにな」
ウラジミール「だけど、ほら、来てくれたら解決するんだよ」
ゴドー「あ! また、言った」
ウラジミール「だってそうだろ? わかった。じゃ、こうしよう。来るのは来てくれ。でも、電車に乗るかどうかはそこで決めればいいだろ?」
ゴドー「駅に行ったら電車に乗ることになるだろ?」
ウラジミール「そんなのはお前の自由だよ」
ゴドー「おいおい。俺をまるめこむのはやめてくれよ。駅まで行って電車にのらないなんてこと、ないだろ? お前、絶対に俺を電車に乗せようとするよ」
ウラジミール「しない」
ゴドー「信じられないね」
ウラジミール「……」
ゴドー「それに……駅まで行った時には俺も電車に乗るよ」
ウラジミール「わかった。譲歩するよ。今、なにしてる?」
ゴドー「楽しくお前と話してる」
ウラジミール「いや、電話する前は?」
ゴドー「まあ、わりと退屈なしてたかな」
ウラジミール「退屈だったの?」
ゴドー「まあな」
ウラジミール「着替えたりは?」
ゴドー「してない」
ウラジミール「せめて時刻表を調べてみたり」
ゴドー「(笑って )そんなことするかよ」
ウラジミール「じゃ、出かけるとしたら、あの服着ようとは考えたりしてみた?」
ゴドー「どうだろうなあ。それくらいは考えたかもしれない」

間。

ウラジミール「俺、思うんだけど」
ゴドー「なに?」
ウラジミール「来る気はないよな?」
ゴドー「今はな」
ウラジミール「この先は?」
ゴドー「だからさ……」
ウラジミール「わからないんだよな? そんなことは」
ゴドー「その通りだよ」

ウラジミールは深呼吸して、

ウラジミール「俺、帰る」
ゴドー「え?」
ウラジミール「もうゴドーを待つのはやめる」
ゴドー「そっか。そりゃそうだよな。そこは寒いだろうし、俺がお前でも辛いだろうなと思うよ」
ウラジミール「じゃ、そうするよ」
ゴドー「わかった。また、電話するわ」
ウラジミール「……あの、それも全部なしだ」
ゴドー「電話も?」
ウラジミール「うん」
ゴドー「一回も?」
ウラジミール「金輪際だ」
ゴドー「まあ、それは仕方ないけど……そんなことできるか?」
ウラジミール「そうしないとしないと俺はこの寒い駅でいつまでも立ってることになるだろ?」
ゴドー「それは理解できるよ。でも、電話までやめるっていうのはなんなんだよ?」
ウラジミール「俺のプライドだ」
ゴドー「え?」
ウラジミール「そうだろ? 待合せしてだ。いや、お前はそのつもりじゃなかったと言うけど、とにかく俺は駅で待ってた。でもすっぽかされたんだよ。なのに電話で楽しい話だけするなんて無理だろ」
ゴドー「すっぽかしてはないよ」
ウラジミール「すっぽかしただろ?」
ゴドー「今は行く気になれないって言っただけだろ?」
ウラジミール「それはすっぽかしたってことなんだよ」
ゴドー「なんだよ、それ」
ウラジミール「じゃ、電話切るからな」
ゴドー「ああ……」

ウラジミールは電話を切る。
そして思い切り伸びをする。
そして帰っていく。

しかし……しばらくするとまた戻ってくる。

(続く)
posted by 土田英生 at 18:56| 京都 ☀| 遊び | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする