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MONO代表・土田英生のブログです

2006年07月30日

流れの恐ろしさ。(後編)

 年を取ると筋肉痛は遅れてやって来るという。私にもその実感はある。なぜか太腿が痛くて理由を考えてみると二日前に駅の階段を走り上がった記憶に突き当たったりする。しかし。あまりに激しく動くとその場で足は動かなくなるのだと思い知った。
 昼過ぎ。昨日買ったラケットやシューズなどを持って卓球場まで行った。ドアをそっと開く。と、そこには数人の人がいた。『あの……昨日電話させていただいた……」「あ、土田さんね?』昨日電話に出てくれた女性らしい。『中学以来、25年振りにちゃんと卓球やる人よ」彼女が周りの人に楽しそうに解説する。『ええ、まあちょっとだけ、打ってみたいと思ったもんですから……」モゴモゴと私は口ごもる。
 そうなのだ。遊びでは何度もやっている。しかし中学の部活動以来、きちんとやったことはない。しかし彼らの本格的な空気にはっきり言ってビビってしまった。
『さ、じゃ、着替えて来て』

 まずはその女性が相手をしてくれた。
 ……うまい。最初はフォアでラリーを打ったのだが、最初から凄い早さなのだ。そして私の球は入らない。「すみませんすみませんすみませんすみません」と、彼女が球を拾いにいく度に何度も私は謝る。離れた台では本格的な人々が激しい練習をしている。
 何だ、ここは?
 しかし彼女はとても優しい。私が何度ミスしても『25年振りだしねえ』と笑う。いや、そもそも25年前だって大したもんじゃないのだ。勘が戻った所でこの人達のレベルには到底追いつかない。しかし彼女は本格的な人達にも『この人、25年振りだって。まだ勘が戻ってないのよ』ばかり言う。皆はあまりに興味を示さない。特にここのオーナーはチラリと私を見るだけだ。
 しかし不思議なことに30分もするとやや慣れて来た。本当に勘が戻ってくる感じがした。遊びではいくらやっていても「こんなもんだったかなあ」と思うだけだったが、やはりちゃんとした人ときちんと練習をすると違う。「球が離れてない!』『正面で!」などと言われている内にみるみるラリーにもついて行けるようになった。
 すると周りにいた男性達も少しづつ言葉をかけて来る。『ショートの時、腕を天井に向けるんだ。ちょっと見てろ、こうだ』などと指導してくれる。すると途端に良くなる。聞けば数々の大会で優勝したりしている人らしい。京都では東山高校の卓球部は強くて有名だが、そこの集まっている人達にもそのOBが多かった。
 一時間打った後、相手が男性に変わる。彼も中学高校大学とずっと卓球をやって来た人だという。レベルが違って申し訳ない。しかし丁寧に付合ってくれる。なのでとにかく必死で私はやった。フォア、ショート、そしてツッツキ、最後は三球目の練習をする。『足が動いてない』などと周りからもアドバイスが続く。しかし……もう息が切れる。そして足がもつれ始めた。始めて二時間。もう限界だった。全く足が動かなくなった。
『あの……すみません。もう限界なので、今日はこの辺りで……』
 
 着替えて帰ろうとするとオーナーが言う。
『クラブチームの練習にも来たらいい』
『……』 
 私がぽかんとしていると横の男性が言う。「まず半年だ。そうすれば少しはましになる。試合にも出られるよ』私は何も言えずへらへらと笑っていた。何だか流れがいけない方角に行っている。確かに楽しかったが、卓球を本格的にやっている時間はない。秋には舞台『錦鯉』の演出もあるし、まだまだ書かなければならない脚本も残っている。
 しかし……皆は私が持っていたラケットなどを点検し、様々なアドバイスをくれる。サービス精神の旺盛な私はよせばいいのにカタログを見て質問までしてしまう。どう見てもやる気満々ではないか。そして帰ろうとした時、相手をしてくれていた女性が笑顔でとどめを指す。「懲りずに続けてね。待ってるからちゃんと来てね」
 ……ついつい私は「もちろんですよ』と言ってしまった。
 取り敢えず私は来週も行くだろう。しかし今も足が痙攣している。
 
posted by 土田英生 at 17:39| 京都 ☀| 雑記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

流れというものの恐ろしさ。

 流れというものは恐ろしい。私が言っているのは会話における流れだ。人にはアイデンティティがあり、さっき喋った自分のある言動を中々即座には否定出来ず、その前提を土台に新しい会話を築いて行ってしまう。セールスをする人等はこの辺りの機微を良く知っていて頻繁に使う。
 例えば前にこんなことがあった。ある人から「月に焼き肉を何回食べますか?」と聞かれ「一回」と答えた。「この店の会員になると年会費1000円で焼き肉が毎回800円引きになります。あなたのペースだと年に9千600円、会費をひいても8千600円の得ですね」……ま、きっぱり断ったが、私が言いたい事は「月に一回」と答えた私の言動を元に相手は揺さぶってくるということだ。
 で、今日はセールスでもなんでもないのだが、会話の流れ上おかしなことになってしまった。
 私はここでも書いている通り、ダイエット中だ。とにかくご飯はたくさん食べず、野菜ばかりを食べ、そして夜には走っている。お陰で体脂肪率などは2.5ポイントも落ちて安定して来ている。体重はまあまだ2、3キロの減だがこのまま暮らせば更に減って行くだろう。
 しかし問題がある。辛いのだ。毎日一時間近く走るのはキツい。お腹も減る。今もぺこぺこだがここは堪えなければならない。
 で、今日は朝から仕事をしていてもどうも空腹で力が出ない。これではきっと挫折する。そして昨年は8キロ減った後、やめたらいきなり10キロ増えたのだ。またしてもそうなってしまうのか。……そこで少なくとも身体を動かすのをもっと効率良く出来なものか思案した。その思考は以下のような順番で展開した。

 スポーツをやればいいんじゃないか? 知らず知らずに身体を動かすことが出来る→泳ぐがいいというが、走るのと同じで面倒になるだろう→楽しいスポーツは何だろう? 球技だ→テニスはいいけど、頻繁にはやりづらい→私は中学の時は卓球部だった。卓球ならいいんじゃないか→そう言えば近所にかなり本格的な卓球場があった。

 インターネットで近所の卓球場を調べてみた。あった。やっぱり本格的だ。ちゃんとしたクラブチームも持っていて、社会人クラブとして大会などにも遠征している。そして最後に「お気軽に電話を」という文字があった。なぜか私はここで「お気軽に」電話をしてしまった。コメントに素直に従ってしまったのだ。すると女性が電話に出た。
 
「あの、卓球をやりたいんですけど……」
「あ、卓球台も時間貸しをしてますから、誰かと来てもらえれば1時間500円で出来ますよ」
 優しく子供に喋るような声。卓球を昔一生懸命やった私にとっては眠っていたプライドの破片を突かれたような気がした。今、考えれば彼女のこの言葉が私を違う方角に連れて行った。
「いやいや、もうちょっとちゃんとやりたんです。本格的に」
 すると彼女は「はあはあ」と相づちを打ち、そして突然専門的な質問に切り替えた。
「経験者ですか?」
「まあ、中学のクラブ活動ですけど……」
「タイプは? ラケットは何を使ってました?」
「え? ああ、ペンホルダーで速攻だったので、表の一枚ラバーを使ってましたけど」
 そして中学の時の成績などを聞かれたあげく、
「じゃあ、一回来て下さい。実は男子選手が今は足りてないんです」
 ここで私は違うと思った。なんだ? 男子選手? 私はダイエットの為に……。ちゃんとはやりたいが、何か違う。そうだ、スポーツとしてはやりたいが、選手だとか、そういう課外活動をしているようなゆとりはない。
 しかし彼女は畳み掛ける。
「ちゃんとやりたいんですもんね? ええ、クラブチームの練習は毎週末です。では明日はラケットと靴を持って来て下さい」
 最後に名前などを聞かれて電話は切れた。そんな、ラケットも何もない。一体どうすればいいのか?

 ……一時間後。私はスポーツショップにいた。二十五年振りにラケットを選んだ。一枚ものは高いので合板だが、まあ最初はこれくらいでいい。ラバーも買った。これはなんと私が中学一年の時に使っていたものと同じ物を買った。ラバーとラケットと貼付けるボンド、そしてソックスに卓球シューズ。何だか買い物をしていると「匂い」に酔った。懐かしさがこみ上げて来てついつい買いそろえてしまった。
 何か違う。間違っている。しかし明日、とにかく一回行ってみる。ラケットも握りが良くなるように削ったし。素振りもしてみたし。なんか……時間が二十五年戻ってしまった。
posted by 土田英生 at 03:43| 京都 ☀| 雑記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする