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MONO代表・土田英生のブログです

2014年08月27日

ツチプロの話とピアスの話

 ツチプロ→の戯曲はやっと自分の中で終わりが見えた。これは間もなく上がる……と、思う。
 もう稽古も始まっているが、これまで渡しているのは半分強の台本だ。

 このユニット。
「土田さん、また新しいユニットをつくったんですか?」
 などと時々聞かれる。
 ツチがつくのでよく勘違いされるのだ。

 ……違う。私にそんな余裕はない。『MONO』があり、若い俳優と組んでいる『kitt』があり、そして活動をあまりしていないがコントユニット『GOVERNMENT OF DOGS』がある。企画としては『土田英生セレクション』もあるのだ。その上、新しいユニットを作るって……それでは私はユニットマニアになってしまう。
 
 ツチプロをやっているのは土屋君という役者で、2003年からずっとMONOなどを手伝ってくれている人だ。
 好青年なのだが……少しだけ感覚というか、人との距離感がずれている。
 人の笑わない場所で大笑いをしたり、皆が笑っているところできょとんとしている。
 突然、大声で語り出したりする。
 ちょっとずれた体育会系男子だと私は定義している。

 4年前くらいだったか、彼から台本を書いてくれという依頼があった。
 ずっと手伝ってくれているし感謝もしているので、そりゃ書ければいいのだが、知り合いに頼まれる度に書いていたのでは私の身が持たない。これまでにもそういう依頼は何回もあるのだ。
 なので私は淡々と現実を告げた。

「ありがたいけど、仕事としてだとしたらね、最低でもコレコレの執筆料をもらわないと、その話は聞けないんだよね」

 そして去年だ。
「姐さん女房の裏切り」の後、私と千葉さん、そして手伝ってくれていた土屋君は三人で新宿三丁目まで帰ってきた。すると……彼が私の耳元で言ったのだ。

「お金は用意しましたので」

 そう告げると……彼は颯爽と帰って行った。
 おいおい、君はマフィアか。
 ……私は困惑した。
 本来なら、そこから話は始まるのだ。
 しかし、彼は新宿方面に意気揚々と帰って行く。
 言ってやったぞという感じで、背中が小さくなって行く。
 そんなことを言われて立ち去られたら……断れないではないか。

 まあ、そんなこんなで書くことになった。
 そして現在、苦しんでいる。

 他の仕事との兼ね合いで、ずっと綱渡り状態が続いている。
 で……まあ……こんなことは認めたくないのだが、どうも綱から落ちた気がする。
 今、抱えているものを全部終わらすことは、どう考えても物理的に無理だ。
 解決策を考えないと。
 いや、分かっているのだ。
 取りかかっているドラマはなんとか進行しなくてはいけない。
 そうなると……書いている小説を一時、中断するしかない。
 1ヶ月、原稿の締切りを延ばしてもらったのだが、8月は全然余裕がなかった。
 元々、この夏がこんな忙しくなるとは思わず、「俳優育成講座」などを立ち上げてしまったのだ。

 ……まずい。本当に愚痴ブログになっている。
 なんか、関係ない話でも書きたい。

 友人と会った時の話にしよう。

 彼女とはロンドン留学中に出会い、それからずっと友達付き合いをしている。
 ここではKさんとしておく。
 現在は放送局でディレクターをしている。
 会うと私たちはとにかく喋る。

 その日は渋谷にいた。どこで飲むというあてもなかった。
 店を探しながらも雑談をする。
 仕事の話、恋愛の話、私が痩せた話。
 服の話、私の腕時計の話。
 彼女がピアスを片方なくしたという話。
 話題は真っすぐ進むことなく、あっちへ行ったり、こっちへ行ったりする。
 もう女子トークだ。
 
「どこに入る?」
「そろそろ決めないとね。バーがいいよね」
 
 私はスコッチを飲むのが好きだ。
 それを知ってくれている彼女が思い出すように言う。

「昔ね、一度だけ行ったことがある店なんだけど、古いスコッチがたくさんあるバーが近くにあるはずなのよ」

「いいんじゃないの。そこにしようよ」

 私たちは向かった。
 少し入り組んだ細い道を歩く。
 路地と言った方が正確かもしれない。
 
「確かね、この辺りなんだよね……まだ、あるといいんだけど」

 彼女も自信なげに言う。
 と、看板がひっそりと明かりに照らされていた。
 ビルの2階にその店はあった。
 
 扉を開けて中に入ると、棚一杯に古いスコッチが並んでいる。
 いい感じのバーだ。
 マスターが私たちをカウンターに案内してくれた。
 そしてスコッチについて色々説明をしてくれた。
 話が途切れた時、彼女が言った。

「前にね、一度だけ寄らせてもらったことがあるんです」
「そうですか。ありがとうございます」

 そう言いながらマスターは彼女を見る。

「なんとなく、覚えていますよ」

 そう言ったが、あくまでリップサービスという雰囲気だった。
 覚えてはないんだろうなあと私は思った。
 そりゃ、毎日毎日、様々なお客さんがやって来るのだ。
 一度来ただけの彼女を覚えていなくても仕方ない。

 こんなのがいいと私たちが言うと、彼はそれぞれにスコッチを選んでくれ準備を始めた。
 そしてうつむきながら彼は言ったのだ。

「来られたのはお正月でしたよね、確か」

 彼女も驚いたようだった。

「あ、はい……」

 すると、彼は何かを指でつまんだ。
 そして私たちの方に近づいてきて、

「これ、お忘れでしたよね」

 と、コースターの上にそっとピアスを置いたのだ。

IMG_4328.jpg


 彼女はしばらく口を開けてぽかんとしていた。
 それは……片方なくなり、彼女がそろそろ捨てようと思っていたピアスだったのだ。
posted by 土田英生 at 00:28| 東京 ☁| 雑記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする