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MONO代表・土田英生のブログです

2017年08月11日

たまには愚痴じゃないことを

 いつも愚痴ばかり書いているという印象があるらしいので、今日は陽気に行ってみよう。
 美味しいものを食べ、帰ってきてからヒンヤリする入浴剤を入れたお風呂に長く浸かり、そしてハイボールを飲んでいるので楽しいことが書ける気がする。

 「きゅうりの花」の東京公演は終了。
 「土田英生セレクション」という、とても申し訳ない気分になる名前の企画もこれで4回目だ。5回目もある……と、思うけど……どうなんだろう。
 「きゅうりの花」はおかげさまで評判もよく……いや、きっとツマラナかった人たちは何も言わずに帰って行くだけなのではっきりは言えないけど、無事に11ステージを終了。

 明日から大阪公演。MONOでもいつも使わせていただいているABCホール。
 
 今日は仕込みだった。
 私は夕方に舞台チェックに行くことになっていた。

 しかしだ。

 その前に私には済ませなければいけないミッションがあった。

 いきなりになるが、私にはとても苦手なことがある。
 だらしないのか、なんなのか……ちょっとしたことが出来ない。
 洗濯とか掃除とか、そんなことはあまり苦にならない。
 問題は……例えばハガキや手紙を出すとか、そういうことがどうしてもパッと済ませられないのだ。
 だいたい、出そうと思ってから3日くらいかかって、やっと手紙などを書く。しかしここからが難関だ。切手も貼る。住所も書く。しかし……それがいつまでも机の上に置いてあったりするのだ。
 で、今日こそ出そうと思ってカバンに入れると、それから一週間くらいカバンに入ったままだったりする。

 ポストに入れる時はだいたい、シワシワになり、妙にアンティークな手紙になったりする。

 私事になるけど、私には今年の4月、ちょっとした転機があった。
 まあ、その、簡単に言ってしまえば一人になった。

 で……ここからがミッションの始まりなのだが……。

 京都の家にはいろいろな支払いの振込用紙などが溜まっていた。税金や保険、年金などの封筒が山のようにある。

 しっかり見ればわかるはずなのだが、どうしてもそれが処理出来ない。
 これまでこうしたことを全く自分でやってこなかったツケだ。

 5月はしばらく京都にいたのだが、その間にもそれが済ませらなかった。
 なので、とにかく全部袋に入れて東京に持って行った。

 「きゅうりの花」の稽古期間、ずっと気になっていた。

 毎朝決心はしていたのだ。

 「今日こそ払おう!」

 そう思って袋から大量の封書を出し、じっくり見てみる。
 中には支払い期限が切れているものあり、コンビニなどでは払えないと書いてある。
 「あああ、嫌だもん」と名古屋弁で独りごちて結局袋に戻す。

 その繰り返しだった。

 その袋は私と一緒に京都に戻ってきてしまった。

 一念発起!

 銀行に向かった。東京公演の時、楽屋でそのことについて喋っていたら、お弁当を食べている金替君が「銀行なら払えると思いますよ」と優しいふにゃふにゃとした言い方で教えてくれたからだ。

 iPhoneにインディージョーンズのテーマ曲を入れ、大音量で聴きながら向かった。
 
 受付番号の票を取る。273番。
 「……じゅうさんばんの方」
 あ、私だ。
 そう思って勇んで窓口に行ってみたら聞き違いだった。
 その間違いを二回した。
 やっと私の番になった。
 窓口のお姉さんはすでに笑っていた。

「やっと順番になりましたね。お待たせして申し訳ありません」

 優しい口調だ。
 すでに私は泣きそうだった。

「今日はどのような御用件で?」

 私は袋から大量の封書を出し、ドサッと置いた。
 そして一気に説明をした。

「いや、本当は、あの、もっと簡潔に済ませらることだと思うんですけど、実は、4月にその私はあの……それで、今まで任せてきてしまっていたので、本当、こんなことじゃダメだと思うんですけど、しかしですね」

 最後には私は涙声になっていた。

「大丈夫でございますよ。一緒に整理しましょう」

 女神だ……。
 桂駅の近くに女神がいたとは。
 阪急電車で嵐山から3区間という近い場所に女神はいたのだ。

 彼女は根気よく、全部整理して、支払いを手伝ってくれた。
 そして最後に彼女は付け加えた。

「いつでもお困りの時はいらしてくださいね」

 もう、これから困ったら女神に会いに行こう。

 そんなこんなで、偉大なる女神のおかげで大きなミッションは終わった。
 銀行を出る時の私は誇らしげな表情をしていたと思う。

 そんな状態だったので、劇場に行って舞台チェックも寛大だった。
 普段なら「あそこのパネルをもっと傾けてくれ」とか「あの照明が目立ちすぎる」とか細々言うのだが、今日はどうも気にならない。
 スタッフの皆に対しても「いい! オッケー! お疲れ様です!」という感じだった。

 劇場を出て、私は淀屋橋に向かった。
 そこには東京組が宿泊しているホテルがある。
 そこで先乗りしていた加藤啓君、内田淳子さんと待ち合わせをしてしゃぶしゃぶを食べた。
 豚しゃぶなのだが、一人用の鍋でそれぞれが食べるのだ。

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 美味しかった。
 途中で柿喰う客の七味まゆ味さんも顔を出した。

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 七味さんはすぐに帰り、店を出る頃、千葉さんが到着したという連絡があった。
 なので四人で今度はカレー屋さんに行った。
 どんだけ食べるねん、という感じだ。

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 で、私は一人京都に帰ってきた。
 けれどその時、グループLINEに神田君がホテルに着いたという連絡があった。
 と……啓くんが「神田君、ご飯食べた? 食べてなかったら付き合うよ」と返信している。
 神田君も「行きたいです」と返信していた。

 おそるべし加藤啓だ。
 しゃぶしゃぶ、カレー、更に何を食べるというのだろうか?

 ……明日は本番だし、朝も早いのでもうやめて眠ろうと思ったが、神田君の話が出たのでもう少し書こう。

 彼は23歳。イケメンのナイスガイだ。
 事務所に入って、つまり俳優業を初めてまだ半年。
 これまでには一回だけアンサンブルの出演があるだけだ。
 だから実質、この「きゅうりの花」が初舞台になる。
 そう考えると……いやあ、本当に立派だ。
 ちゃんと芝居も出来ているし、本番に入ってからもどんどんよくなっている。
 
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 写真は……諏訪君にきゅうり柄の手ぬぐいをもらって嬉しそうにしている神田君。
 楽屋の鏡前にはメイク道具などで汚さないように手ぬぐいを敷くのが通例になっているのだが、神田君はそれを知らなかった。すると諏訪君が休演日に買ってきてあげたのだ。

 そんなかわいい神田君だが……。
 まあ、稽古の最初は……さすがに全然ダメだった。
 台詞も歌ってしまって聞こえないし、動くと身体はバラバラになるし、人の台詞に反応も出来ていなかった。
 
 けれど、私は余裕だった。「できる」と判断した役者は絶対に大丈夫なのだ。

 私なりに順番を考えた。
 最初の一週間は台詞をフラットに言うことだけしか言わなかった。
 次の週になって、反応の説明をした。
 立ち稽古になってからも動きは変だったが、だんだんと芝居に馴染んできた。
 で、通し稽古になってから、動きのことを伝え、更に最後の稽古でやっと感情の話をした。いや、感情じゃないね、流れだね。
 彼は見事だったねえ。どんどん吸収して行くし。
 大阪ではもっと化ける可能性もある。楽しみだ。

 もちろん彼の成長は彼自身の能力と頑張りによるものが大きいけれど、下手な演出の仕方をすればダメになってしまう可能性もあったと思う。

 前にとある稽古場を見学した時だった。
 
 その演出家は出来ていない役者に向かって、延々と「そこどういう気持ちでやってる?」などと聞いていた。
 役者も役者で「こんな気持ちでやっています」とか答えている。
 おいおいと思った。
 そんな稽古では絶対に役者は伸びない。
 
 だいたい、表情とか感情についてどうこうってさ……。
 表情も感情も、演技の結果「役者から出てくるもの」であって「意識して出す」もんじゃない。
 演出家がそうしたいのなら、そうなるように段取りを組むのが仕事なのだ。

 さらにその稽古場では演出家が延々喋っていた。
 「あそこのシーンではどう」とか、「ここでは表情がどうなっている」とか。
 だからそれは結果だし、ただの感想にすぎない。演出家は観客じゃないんだからねえ。
 「ダメ出し」は演出家が感想をいう場ではないしね。

 まあ、私も喋るんだよねえ。
 ほとんど無駄話だけど。中学時代の初恋エピソードとか。
 これは必要ない。だから改めないとな。

 稽古でもっとも大事なことは、身体に馴染ませる機会をいかに役者さんたちに与えられるかだと思っている。
 段取りを組んで、なんどもやってみる。すると役者さんたちは自分でモチベーションを見つけ始める。全ての行動や台詞がモチベーションで埋まってくると、その結果、感情が出てくるものなのだ。

 それにそんなにたくさんの話をしたって、役者さんが処理出来ないし。
 私はどんなベテランの役者さんに対しても1日5つ以上はダメを出さないように心がけている。
 ちなみに神田君には3つにしようと決めていた。
 順番に、ワンステップずつ、問題をクリアにして行けばいいのだ。

 結果、彼は本番の中で舞台を生き、すると私の想像を超えた表情を見せたりしてくれているのだ。

 そんな「きゅうりの花」は明日からですので、皆様お待ちしています。
 チラシをクリックすると特設サイトに飛びます!
 
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posted by 土田英生 at 01:18| 京都 ☁| 雑記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年08月16日

「きゅうりの花」終了

 土田英生セレクション「きゅうりの花」の公演が終わった。
 いやあ、楽しかった。

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 ご来場くださった皆様、本当にありがとうございました。

 実を言えばMONO公演「ハテノウタ」が終わってから、どうも調子が出なかった。
 ま、個人的にも色々あったしね。
 正直にいえば、初めて「そろそろやめた方がいいかも」という考えが頭をよぎったりした。
 やめたところで、他にできることもないんだけど、それでもどうも続けていく自信を失っていたのだ。
 自分の能力に対する疑いがどんどん広がり、もう無理なんじゃないかと思えてしまう。社会の動きを見ていても嫌になることばっかりで、こんな世の中で一体私は何を創って行くつもりなのか、そんな覚悟はあるんだとうかと自問した。

 こんな状態で「きゅうりの花」ができるんだろうか?
 
 そんな時、ケラさんから呑もうよと誘ってもらった。
 あれで助かった。
 差し呑みをしながら色々と話す中で、随分と楽になった。
 
 「きゅうりの花」の稽古が始まったのはそんな時だったのだ。

 この企画の難しいところは、昔、書いた自作を演出することだ。
 どうやら私は、“現在考えていることを作品にして発表すること”が好きらしい。過去にすでに書かれたものにあまり興味が湧かないのだ。それもあって「本当にできるんだろうか」と不安だったのだ。
 
 今回はキャストとスタッフの頑張りに背中を押してもらった。
 金替君は別として、他のメンバーはこの作品をやるのは初めてなわけで、彼らが戯曲に向き合ってくれることで、私自身も新たな発見ができ、結果、モチベーションが上がって行った。

 本当、皆、真面目に稽古に取り組んでくれたしね。
 チームワークも良く、まるで劇団のようだった。とても大人な座組でキャッキャとはしゃぐ訳でもなかったけど、皆が適度な距離を取り、仲良くやってくれてたし。

 大阪の最終日。
 東京に戻るメンバーもいたので、その時間まで皆で焼肉に行った。

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 ……この店がとても美味しかった。
 「うまいよね」という言葉が、皆の口から出た。
 金替君は5回くらい言っていた。

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 とにかく終わった。それもいい感じで。

 そうだ。
 食べ物といえば、諏訪君に影響されて、東京公演に入ってから、私は低糖質ダイエットを試みた。
 始めて四日くらいで痩せてきた。
 お弁当もおかずだけ。朝もパンなどは食べない。
 あんなに大好きなあんぱんすら控えた。
 差し入れにいただいた甘いものなども我慢した。
 いや、正直に言えばちょっとだけ食べたけど。特にアンコのものは……大判焼きなどは何個も食べたけど。

 嬉しかったのは大阪公演に空晴の岡部さんがきてくれた時、彼女は……なんとそのことを知っていて、低糖質のものを差し入れてくれた。あのクッキーはいいね。むさぼり食べたよ。美味しかった……。

 一々、諏訪君に「これ食べてもいいかな」と聞きながら過ごした。
 なんせ私のダイエット師匠なのだ。

 問題は……師匠も時々ブレることだ。
 師匠自身が誘惑に負けて食べてしまうことがある。
 これは困る。
 しかもだ。そういう時、必ず彼は言うのだ。「これくらい大丈夫」と。そして私にも食べることを勧めてくる。元々食べたいのに、師匠にそんなこと言われたら百パーセントの確率で食べてしまう。
 
 東京公演の最終日も、皆で飲んだ後、諏訪君と二人で呑みに行き、二人でレタスチャーハンを食べてしまった。それにしても……アレ……美味しかったな、マジで。

 大阪の最後もそうだった。
 焼肉を食べ、それから私たちはピザが美味しいという飲み屋に入った。
 私は飲むだけで我慢するつもりだったのに。

 なのに。

 師匠は……師匠は……。

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 ……師匠が食べたら弟子も食べてしまう。
 アレも美味しかった……。

 終わってからの二日間、京都の家でじっとしていた。
 戦争のドキュメンタリーばかり見ていた。

 本当に切実になってきたね。

 歴史から学べというけれど、なかなかそうは行かないらしい。

 問題は……人は原理原則だけでは動かないということだ。
 情けないことにすぐに感情に支配される。
 自分と同じ考えでも、嫌いな人が言うから反対に回ったり、面倒になるとスイッチを切ってしまったり。
 一旦言い出すと引けなくなっちゃうし。

 後、怖いのは世の中の動きなどに関して「仕方ないや」と思ってしまうことだ。
 今ある範囲で物事をやろうとしてしまう。
 その範囲がおかしいなら、そこに対して物を言わなければいけないのに。
 根本にある問題をすぐに見失うんだよね。
 
 黒澤明の「七人の侍」を良く思い出す。

 敵から嫌がらせをされて困っている農民たちは、最初、七人の侍たちに助けを求める。
 七人は農民の為に戦う。
 当然、敵の攻撃も激化する。
 と、ある時、農民たちは言うのだ。
 「あんたたちのせいでこんな目に遭う」というようなことを。

 相手を倒さなければ根本解決にはならないのに。
 
 自分が何を望むのか、静かに向き合わなければいけない。

 芝居創りでも一緒だ。
 こんな条件だからこうする、とか、あの人に褒めらるからこうする、とか、そういうことではなく、本当は自分がどんな芝居がしたいのか、それだけは見失ってはいけないしねえ。
 
 色々と嫌な気持ちになるけど、今の私には創作意欲はある。
 どんなことをやりたいか、具体的に見えてもいる。
 
 やって行くしかない。
posted by 土田英生 at 04:38| 京都 ☁| 雑記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年08月22日

自称牧師と怠惰なマネキン

 酔って帰ってきてウトウトしてたんだけど、なぜか突然パッと目が覚めたので更新。

 今は下北沢にいる。

 19日。京都から広島に向かい、この3年続けてやらせてもらっているアステール演劇学校「俳優コース」を2日間やった。今年は顔なじみもいれば、初めましての人もいるが、比較的若い人が多い。
 10月に試演会がある。
 この構想もかたまりつつある。

 20日の終了後、そのまま新幹線に乗って東京へ移動してきた。
 ちなみに新幹線車内では隣の人と小さな争いを繰り返した。
 なんか……本当にトトロそっくりの人だった。
 まさに「隣のトトロ」だった。
 この争いについても書きたいが、今日は他に書かなければいけないエピソードがある。
 「隣の牧師さん」についてだ。

 28日に花組芝居「いろは四谷怪談」にゲスト出演させてもらうことになったので、今日は稽古を覗きに行かせてもらった。サイトはこちらです!→

 通し稽古を見せてもらうことになり、始まるまで少し時間があった。
 なのでちょっと書き物をしようとカフェに向かった。

 私はノートを広げた。
 隣のテーブルには若い女性と少し年上の男性が向かい合って座っていた。
 ノートに作品の構想などを書き出したその時だった。

「いやあ、それは悪魔の所業なんですよ」

 という男性の声が聞こえてきた。
 “悪魔の所業”というワードを日常会話で使っているのを初めて聞いた。
 私のペンはぴったり止まった。
 そこからは……もう全神経が隣のテーブルに向かった。
 
「そいつは悪魔に取り憑かれていると言わざるを得ませんね」

 女性は小さくうなずいている。
 しばらく聞いていると、男性は牧師さんなんだと分かった。
 会話の中で「僕ら牧師はですね」と言っていたので間違いない。だから悪魔などという例えが出てくるのだろう。そして女性は、牧師さんに相談しているということらしい。

 話から推察したところ、どうやら女性は旦那と別れたばかり。
 その旦那がとんでもない男で、やっと逃れられて安心している。けれど、その旦那がそのままではあまりに理不尽なので、なんとかして反省させたいというようなことだ。

「神は見ています。見ていますから大丈夫なんです」

 牧師さんは言う。
 
「そりゃ見てはくれているんだと思いますが、あの人はきっとあのままですよ」

 女性はどうやら具体的な方策が欲しいようだ。

「大丈夫です。神は見ていますから」
「ということは……そのうち、あの人に何か罰などがくだるんでしょうか?」
「本当にそうしたいのなら……簡単です」
「簡単?」
「はい。祈るんです」
「私が?」
「私も祈ってあげますよ。あのね、神は、意外と残酷なことを平気でしますから」
「どういうことでしょうか?」

 私も女性と全く同じ気持ちだった。
 どういうことなのだ?
 祈ればその元旦那に何かしらの罰がくだるということだろうか?

「殺せますよ、私が祈れば」

 衝撃な的な一言が、洒落た店内に響き渡った。
 私はコーヒーを危うくこぼすところだった。

 おいおいおい。
 
「え? あの人をですか? いや、私は別に死んで欲しいなんて思ってないんです」

 女性は慌てて言う。
 私も全く女性と同意見だ。
 殺さなくたって、ねえ?

「けど、本当なんです。実は僕の場合もそうでした。うちの父が……」

 その後は、もうとんでもない会話が繰り広げられた。

 この自称牧師は論理も倫理もめちゃくちゃなのだ。
 しかも、女性の話は聞かず、すぐに「僕の場合はですね」と自分の話を披露する。
 そして最後には「祈ればいいんです」という言葉だけでまとめてしまう。
 
 しかしだ。

 これは……ここに具体的に全部書くのはやめよう。
 必死にメモは取って来た。けれど……本当に面白かったので、作品に使いたい気持ちが湧いてきた。

 そうしよう。

 次回のMONO特別企画「怠惰なマネキン」の中に多分出てくると思う。

 隣のトトロも牧師の話もやめて、公演について書こう。

 
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 11月に新宿の小さなスペースで公演する。
 ちなみに出演者の一人である立川茜さんは、一昨年、広島でのアステールの演劇学校《俳優コース》に参加していた。昨年、大学を出て東京にやってきて、一緒にワークシップなどを続け、出てもらうことになった。

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 この写真だと一番右端にいるのが立川さんだ。
 
 それ以外の4人は3年前の「俳優育成講座《東京》」の参加者だ。4人は土田英生セレクションvol.3「算段兄弟」にも出てくれている。
 ついでに紹介しよう。
 立川さんの隣が渡辺啓太くん。
 その隣、真ん中に写っているのが高橋明日香さん。彼女は6年前に出会ってから9回も一緒に芝居をやっている。その隣が大村わたる君。
 
 あ、そうか。
 23日から高橋、大村の2人はそれぞれ別の舞台に出ている。
 これも紹介しておかないとね。
 興味のある方はぜひ。

 高橋明日香さんはaibook「疾走」→
 大村わたるくんはKUNIO「夏の夜の夢」→

 で、左端が石丸奈菜美さん。彼女とは「歪(ibitsu)」でも2回一緒にやった。二十代とは思えない昭和の香りをまとった女優さんだ。
 
 とにかく、この5人で芝居を創る。
 この1年、このメンバーでワークショップを続けてきた。
 共通言語もできてきたし、それぞれのメンバーの課題もはっきりしてきた。私がこれまで大事にしてきた呼吸や自意識のことだけでなく、最近は新しいことを色々試している。
 毎回発見があり、演技についてこれまでと違った回路ができつつある。
 
 これはクローズドでやっている。だから私もお金はもらっていない。前にこの話を人にしたら「ボランティアですか」と聞かれたことがあるが、ここに大きな誤解があるよね。
 
 いつからか、「ワークショップ」を講座的な意味合いで使う人が増えた。
 もちろんそれもあるんだと思う。
 実際、私もそうしたワークショップはたくさんやってるし。
 けれど、本来、ワークショップは「工房」という意味で、何かを試す場だ。むしろ、劇作家、演出家にとっての勉強の場なのだ。本当なら私が皆にお金を払って開かなくてはいけない。実際、そうしている人もいるしね。

 新作などを書く時の大きなヒントをもらっている。これがMONOの本公演などにつながって行くのだ。
 
 話がそれた。
 もっと公演のことを具体的に書きたかったけど、また改めよう。

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posted by 土田英生 at 04:00| 東京 ☁| 雑記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年08月25日

全く変わっていない人

 Wさんと最初に会ったのは2001年。
 だから16年前だ。
 MONOの公演「約三十の嘘」をシアタートラムで上演していた時。
 その終演後だった。

 楽屋に突然、背の高い人がやってきた。

「××テレビのWと言います。いやあ、君、面白いねえ。ちょっと話そう……と言いながらさ、俺、ちょっと今日は時間ないんだけどね」
 
 その人はいきなり勢いよく喋った。

 ……MONOは東京公演を定期化させて2年くらい経ち、私自身もアルバイト生活から抜け出し、外部への作品提供をし始めた時期だ。劇団M.O.P.に「遠州の葬儀屋」、G2プロデュースに「いつわりとクロワッサン」、宮本亜門さんのパルコミュージカルに「BOYS TIME」を書いた。そして文学座に「崩れた石垣、のぼる鮭たち」劇団青年座に「悔しい女」を書くことが決まっていた。
 やっと劇作家の仲間入りが出来たと喜んでいた頃だ。舞台だけをやっていくつもりでいたし、映像の仕事にも興味はあったけれど自分には無縁のものだと思っていた。

 終演後は、とあるテレビ局の映画制作の人と約束があった。
 実現はまだまだ先だけど、いずれ映画を一緒にやりましょうと言ってくれていた女性だ。

 待ち合わせ場所であるカフェに向かった。
 と……なぜか隣にWさんも一緒に座っている。

「いやあ、彼女とは同じ局だからさ、偶然いてびっくりしてねえ。で、聞いたら今日は土田さんと喋るっていうもんだからさ、いや、時間ないんで、俺はすぐにいなくなるけど、ちょっとだけでもと思って」

 結局、それからWさんがほとんど喋った。
 最初はやたらめったら褒めてくれ、それから「ここが弱いんだよ」などと勢いよく語って帰って行った。
 映画制作のSさんとはほとんど何も話せなかった。

 それから一ヶ月後。
 公演が終わって京都にいると、いきなりWさんから電話がかかってきた。そして翌日には京都までやってきた。その行動の早さにも驚いたが、Wさんから聞いた話の内容にさらに驚いた。
 草g剛さんのリーディングドラマの作と演出をしてくれという話だった。

 知ったばかりの私にいきなり頼むなんて大丈夫なのかと、こっちが不安になった。
 しかし、Wさんは恩に着せる風でもなく、まるで当然だというように「なんか面白いアイデアない?」とあっけらかんと聞いてくる。そして内容について打ち合わせを始める。

 結果、私は「ヴォイス」という、椿姫を題材にした朗読劇を書いて演出させてもらった。一緒にツアーも回った。Wさんに会って半年後のことだ。

 とにかく決断の早い人だった。

 同じ年、私は初めて地上波の連続ドラマを書くことになった。
 プロデューサーは当然Wさん。
 「天才! 柳沢教授の生活」というドラマだった。
 今でもとても気に入っているドラマだ。MONOの金替君も初めてのレギュラー出演をしている。
 DVD化されていないので今は観られない……と、思う。
 
 それからしばらく経って、Wさんから会いたいと連絡をもらった。
 会ってみるとまたしてもいきなり言った。
 
「北海道にさ、面白い奴がいるんだよ。一回さ、土田君と会わせたいと思ってるんだよ」

 それが……“大泉洋”のことだった。
 で、結局、それが後々「おかしなふたり」という洋ちゃん主演のドラマにつながった。
 
 しばらくWさんと会わなかった。
 その頃になると、私は他局のドラマなども書くようになっていた。
 劇団活動も含め、かなり忙しくなっていた。

 そんな時。
 再びWさんから電話がかかってきた。

 リリーフランキーさんの「東京タワー」をドラマ化するという話だった。
 電話口のWさんは興奮気味に言った。

「演出だれがすると思う? 久世さんだよ。やりたいだろ? で、俺、脚本に土田君を推薦したんだよ」

 久世さんは私にとっても憧れの人だった。
 舞い上がるような気持ちだった。
 もちろんやりたい。
 けれど、私はスケジュールが詰まっていた。どうしても無理だった。

「え? これを断るの? ダメだよ。俺さ、推薦しちゃったんだよ。俺はどうするの? 困るでしょう?」

 書くことになった。

 けれど。
 ここがWさんの面白いところなのだが……。
 初稿を書き終え、本打ちをしていた時だ。
 リップサービスだろうとは思うけど、久世さんがいきなり言った。

「土田君と出会わせてくれてありがとう」

 私は嬉しかった。あの久世さんがそんなことを……。
 笑みを堪えきれない。
 私はWさんを見た。
 
 しかし……彼は狐につままれたような表情で久世さんを見つめていた。
 そして私を指さしてこう言ったのだ。

「え? それ……こいつのことですか?」

 おいおい。
 推薦してくれたのはあなたではないのか、と私は思った。

 それを最後に一緒に仕事をすることはなくなった。
 いや、正確に言えば、一緒にやりかけた仕事は何度かあった。
 けれど実現しなかったり、それからWさんの部署が変わったりしたこともあって、段々と会うこともなくなった。
 時々、ふと思い出しては喋りたいなあと思ったりしていたが、なかなか叶わなかった。

 月日は流れた。

 で……。

 この前の「きゅうりの花」。

 お客さんのリストを確認していると……Wさんの名前があった。

 え?
 
 やはりWさんは勢いよく楽屋にやってきた。
 
「いやあ、やってるねえ。相変わらず、ええ? いや、俺さ、前に偶然、ブログを読んだのよ。普段、全然読まないんだけどね。そしたらさ、土田英生がなんか世の中に対して怒っててさあ。『お、これは、まだやってるなあ』と思ってねえ。で、観に来たのよ。一回、会って色々相談しようよ」

 そしてやはり嵐のように去って行った。

 ……で、今日、会った。

 本当に、本当に……出会った頃と全く変わってなかった。
 相変わらずモチベーションは高いし、私に対して失礼なことも平気で言う。

 けれど、そこには創作に対する愛が溢れていた。

 なんだか妙に幸せな気分になった。
 Wさんもまだまだやってる。

 私もやらないとね。
posted by 土田英生 at 04:30| 東京 ☀| 雑記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年08月27日

ハート

 5年ぶりのENBUゼミだった。木曜日1コマ、土曜日2コマで終了。
 合計7時間半なので、じっくりとは出来なかったけど、ダイジェスト的に一通りのことをやった。

 ずっと気になっていることだが、「台詞を喋ろう」「表現しよう」という役者さんが多すぎる気がする。だからそれをいかに排除するかに力点を置いたプログラムにした。
 
 皆から呑もうと誘ってもらったので、少しだけ一緒に行った。

 色々と話した。
 皆、これからのことに希望と不安を抱いている。アドバイスしたかったが、無責任はことは言えない。先のことなど誰にも分からないし、私自身、えらそうに何か言える立場でもないのだ。
 いや、随分と言いかけたけど。
 途中でまずいと思って自戒した。
 私は元々、油断すると語ってしまうタイプなのだ。語りながら自己確認をしようとする困った癖がある。
 もっとも嫌いなヤツだ。

 私は人の相談によく乗る方だと思うし、実際、わりと頻繁に皆からSOSがくる。

 しかし、その事実に私が救済されているのだ。
 優しさなどではなく、自分の為だ。
 私は欲深いし、煩悩の塊だしね。

 時々、そのことに気がついてとても嫌な気持ちになる。

 自分の言葉を信じてもらうことはとても気持ちがいい。
 作品を創る動機だって、このことと無縁ではないと思う。

 けれど、そうしたことから離れて言葉を発してみたい。

 今日、友達を励まそうとして色々と言葉を並べてみた。
 自己確認の道具にはしないと決め、相手の為だけに言葉を発しようと努力してみた。
 なんだか言葉だけが哀しく舞っていた。
 喋りながら、私は勝手に傷ついた。
 まだまだ未熟者だ。
 
 台本を書いている時、常に効果を計りながら台詞を並べる。
 観客にどう届くかばかりを気にしながら書いている。
 ここで笑い、ここで事情を説明し、ここで、ここで、ここで……。

 けれど、時折、無心でページを進めている時がある。
 何かに書かされている気分に陥る。
 その部分はほとんど手直しせずに済む。

 まあ、滅多にそんなことはないんだけどねえ。
 
 ジーンズを履いたらポケットから紙のカタマリが出てきた。
 ポケットに紙を入れたまま洗濯したんだよね。
 元はなんだったんだろ?
 微妙なハート形をしてるな、これ。

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posted by 土田英生 at 03:20| 東京 ☁| 雑記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする