表紙に戻る
MONO代表・土田英生のブログです

2018年10月07日

路上演劇祭2

私たちがフィールドとしている小劇場と呼ばれるところは、基本的に新しい団体や表現が次々と出てくる。
移り変わりも激しい。
10年経てばかなりの劇団が姿を消す。

MONOは来年で30年。
まあ、結構、長くやっている方だと思う。

京都で劇団活動を始め、10年くらい経った頃から全国公演をするようになった。
その頃は動員も伸び、取材なども増え、これからの劇団としていろいろな媒体で取り上げてもらった。私もテレビドラマの脚本なども書き始め順風満帆だった。

その頃は7人体制。男性5人と女性2人。
客演などを一切呼ばず、劇団員だけでの公演を続けた。
「ー初恋」「約三十の嘘」「燕のいる駅」「きゅうりの花」など今でも上演してもらっている様々な作品はこの時期に書いたものだ。

やがて女優が抜け、それ以来はずっと男性5人でやってきた。
20周年もそのメンバーで迎えた。
このままでいいと思っていた。
どうしても男性5人だけでは作品の幅が狭くなるので、客演は呼ぶようになっていたが、それでも不都合は感じなかった。

一時期よりは減ったけれど、それでも来てくださるお客さんもたくさんいるし、私たちは比較的順調に公演活動も続けている。

ただ、これからの10年を考えた時、このままでは徐々に縮小して行くだけだと考えるようになった。

私は一応、劇団の代表なので、先のことを考えなけれないけない。
MONO特別企画でオーディションをしたり、俳優育成講座というのを開いたりしたのは新しい出会いを求めてのことだった。
どうも私は同じメンバーで物事を積み重ねていくことが好きらしい。

紆余曲折はあったが、今年新しいメンバーが増えた。

20年ぶりのことだ。

今回、観劇三昧が企画している路上演劇祭への誘いをもらった。
これまでのMONOだったら参加など考えなかった。
正直に言えば、今更ショーケース的な場所にノコノコ出て行くのもなあという感じもあった。

けど、新しいメンバーが「やってみたい」と言ってくれた。
渡辺啓太君は他の舞台に出ていてスケジュールが合わなかったが、女優3人はやるという。
若い人たちなどにMONOを知ってもらうためにも参加してみたいというコメントを聞き、私も腰をあげた。

20分弱の短編を書いた。
タイトルもある。

『座れ、オオガミ』

野外でやって、果たして鑑賞に耐えられるものになるのか、それはわからないけど、それでも一週間稽古をしている。
会話を得意とする私たちの芝居の一端は理解してもらえるものになって来ていると思う。

IMG_2390.jpg


10月8日の14時15分から、下北沢の会場。
入場無料のカンパ制ですし、カレーフェスとのコラボなので色んなカレーも食べられます。
MONOの短編には柿喰う客の七味まゆ味さんも遊びに来てくれますー!

上演終了後、15時からは観劇三昧で物販及び交流会もありますので遊びに来てください。

詳細はこちらをご覧ください。→



posted by 土田英生 at 03:07| 京都 ☁| MONO | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年10月27日

出かける前

 久しぶりに京都にしばらくいる。
 今から東京に舞台を観に行くのだが、出かけるまでに30分ある。
 明日の夜か明後日の朝には戻ってくるつもりだし、なんの準備もいらない。
 着替えるだけだ。

 この2週間は膨大な量の台詞やト書きを読んだ。
 それも全て人の書いたものだ。

 13日には東京で劇作家協会の月一リーディングのゲスト、14日に京都に帰ってきて17日には大阪でNHKラジオドラマ脚本賞の審査会。
 18日からは京都造形大学で川村毅さん演出のリーディングの稽古。
 並行して新人戯曲賞の二次審査も引き受けていたので、全部で23本読んだことになる。
 
 引きずられたようで、昨日もプロットを書いていたけれど、どうにも自分の感覚が取り戻せない。
 
 こんな風に家で過ごすのも久しぶりだ。
 家の中にいると色んな場所が気になり出した。
 
 階段を上がったところの窓。
 殺風景で嫌だなあと前から思っていた。
 カーテンをしてごまかしていたのだが、それを外すとこんな感じだったのだ。

IMG_2443.jpg

 
 リーディングの稽古帰り、Can Doに立ち寄った時、ふとこんなものが目に止まった。

IMG_2444.jpg

 
 なんだこれ?
 マグネットになっているテープ。
 厚みもある。
 ステンドグラスの枠に使われている銅テープっぽいなあと思った。
 その途端、「あ」と思った。

 早速買ってきて、これで枠取りをして、中をガラス用のペイントで塗ってみた。

 まだ途中だが、今はこうなっている。

IMG_2520.jpg

 
 寝室に小さいゴミ箱が欲しいとも思っていた。
 けれど隙間が狭くて、家にあるものだと置けない。

 マグネットテープを買った時、ついでに板を何枚か買ったのを思い出した。
 あれで作ってみよう。
 100圴で売っている板は反っていたりするし、質も悪いけれど、柔らかいから加工はしやすいんだよね。

 昨日、プロットを書きながら合間に作ってみた。
 
IMG_2577.jpg
 

 材料費は400円だ。
 ちゃんと隙間におさまった。

 
IMG_2578.jpg


 ……なんだこれ?
 ただのDIYブログみたいになっている。

 私は人と喋っているのも大好きだが、一人で引きこもって何かを作っているのも好きなのだ。
 レザークラフトもそうだし。
 常に自意識が騒がしい私だが、集中していると忘れられるんだよね。
 だったら台本を書けと思うけど、台本は書きながらも常に色々と考えてしまうから苦しいのだ。

 もう時間がないのであまり書けないけれど、造形大学まで三日間、バスで通った。
 3番の市バスに乗って始発からほぼ終点まで。

 このバスは京都を東西に横断する。

 途中、住んでいた場所もたくさん通る。
 南広町、四条大宮、出町柳。
 そして様々な思い出の中をバスは通り過ぎていくのだ。
 意図的に考えるつもりもないのに、過去のあらゆる景色がフラッシュバックして侵入してくる。
 深夜に水沼くんと歩いた道、鈴江さんや松田さんといつも朝まで話したタナカ珈琲、深津くんと喧嘩した交差点、マキノさんから初めて台本の依頼をしてもらった高木モータースがあった場所。
 
 3番のバスはやばいね。
 
 着替えないと。
 どうでもいいけど、スエットがまた前後ろ逆だ。
 もう脱ぐからいいけど。
 
posted by 土田英生 at 12:40| 京都 ☔| 雑記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年10月29日

ゴドーとの電話

ウラジミールが立っている。
自信に満ちた表情。
笑顔にすら見える。
と、電話が鳴る。

ウラジミール「もしもし」
ゴドー「あ、ゴドーだけど。何してるの?」
ウラジミール「いや、取り敢えずゴドーを……つまりお前を待ってるんだけど」
ゴドー「あ、そっか」
ウラジミール「そっか? え? なに?」
ゴドー「いや、そのことなんだけど……俺、行けないかも知れないんだよね」
ウラジミール「え? なんで? 来てよ。待ってるのに」
ゴドー「……あ、でも、うん、でもねえ……」
ウラジミール「どういうこと?」
ゴドー「その気になれないんだよね」
ウラジミール「は?」
ゴドー「うん、悪いんだけど」
ウラジミール「なんだよ、それ」
ゴドー「でも事実そうなんだよ」
ウラジミール「……じゃ、もう待合せ自体をなしにしよう。ここで待ってるの辛いし。それでいいよね?」
ゴドー「いや、行く可能性はゼロではない」
ウラジミール「どういうこと?」
ゴドー「言葉通りだよ。ゼロではない」
ウラジミール「じゃ、待ってていいの?」
ゴドー「待ってていいっていうか……」
ウラジミール「来ないの?」
ゴドー「今はね」
ウラジミール「今は? あとで来るかもしれないってこと?」
ゴドー「そういうことかなあ……うんん……」
ウラジミール「すぐ?」
ゴドー「すぐじゃない。すぐは無理」
ウラジミール「ああ。じゃ、まあ、一応、待ってるよ」
ゴドー「いや、待たなくていい」
ウラジミール「は?」
ゴドー「待たれたくはないんだよ」
ウラジミール「でも、もう待合せ場所にいるんだよ。てことはさ、俺、待ってる状態なんだから」
ゴドー「意味がわからない」
ウラジミール「わかるだろ? 俺の選択肢は待つか待たないかしかないだろ?」
ゴドー「待たずに普通にしててくれ」
ウラジミール「普通って……だけど、待ってるからさ」
ゴドー「じゃ、電話でこのまま話してるっていうのは?」
ウラジミール「そんなことより……来るのか来ないのかはっきりしてくれれば」
ゴドー「はっきりなんてできないよ」

やや間。
ウラジミールは息を吸ってから、

ウラジミール「……あのさ、絶対に来られないなら待合せはなしにするしかないよ」
ゴドー「おい、脅さないでくれ」
ウラジミール「脅してるつもりはないけど」
ゴドー「そんな風に聞くのって、なんか、ひどいよ。暴力だよ」
ウラジミール「そんなつもりはないけど。……ごめん。じゃ、来る可能性があるかどうかだけでも教えてよ?
ゴドー「そんなことわからないよ、俺にも」
ウラジミール「でも、それだと困るんだよ」
ゴドー「なんで?」
ウラジミール「なんでって? 一回、待ち始めちゃったからさ」
ゴドー「だからなに?」
ウラジミール「待つことになったんだから、お前が来るのか来ないのかだけでも知りたいし」
ゴドー「だけど、そもそも俺は待合せしたつもりないけどな」
ウラジミール「は? ないの?」
ゴドー「うん」

ウラジミールは気分を落ち着けてから、

ウラジミール「……じゃ、俺の勘違いだったんだね。わかった。もういっさい待つのはやめる。で、帰るよ」
ゴドー「帰る?」
ウラジミール「うん。もう二度と戻って来ない」
ゴドー「(笑って)それは大げさだよ。普通に待っててよ」
ウラジミール「普通に待つって?」
ゴドー「だから早く来いとか言わずに」
ウラジミール「じゃ、来る確率とかは?」
ゴドー「それもわからない」
ウラジミール「でも、じっと駅で立ってる身になってよ」
ゴドー「まあ、それは辛いだろうけど」
ウラジミール「俺の気持ちわかるだろ?」
ゴドー「……けどさ、そんな風に言われて困ってる俺の身にもなってくれよ」
ウラジミール「よし、いいよ。一つだけ教えてくれ。……来る気はあるの?」
ゴドー「……」
ウラジミール「それもわからないの?」
ゴドー「難しいなあ」
ウラジミール「難しくないだろ? 来るつもりがあるのなどうかだけでも教えてくれよ。だって、実際に、俺はここで待ってる羽目になってるんだから」
ゴドー「そんな風に待ってるとか言わない方が行く気になるかもしれない」
ウラジミール「そうなの?」
ゴドー「うん」
ウラジミール「わかった」
ゴドー「普通にしててよ。俺も普通にしてるから」
ウラジミール「でも、俺はさ……ま、いいや。わかったよ。なるべく普通にしてるよ」

間。

ゴドー「ふふふ。聞いてくれよ。この前、面白いことがあって。俺がエストラゴンと待合せしてた時にね……」
ウラジミール「待って。なんの話?」
ゴドー「いや、普通に楽しい話を……」
ウラジミール「いやいや、そんな話はいいからさ。今、来るのか来ないのか」
ゴドー「またそれ?」
ウラジミール「だって……」
ゴドー「今は行けないって言っただろ?」
ウラジミール「でも、待ってるんだし」
ゴドー「待ってるとか言うなって」
ウラジミール「……ええ?」
ゴドー「さっき言っただろ? わからないんだから」
ウラジミール「でもさ、なんか、ほら、手がかりとかあるだろ? ちょっと着替えようとしてるとか、少し来てみようという気になったとか」
ゴドー「それは変わってない」
ウラジミール「え? じゃ、来ないの?」
ゴドー「だからわからないって」
ウラジミール「でもさ、俺、待ってるからさ」
ゴドー「そんなこと頼んだ覚えないんだよ」
ウラジミール「……わかったよ。じゃ、もう待合せはなしで、電話も切る」
ゴドー「電話くらいいいだろ? もう少し話してようよ」
ウラジミール「来ないのに、電話でだけ話してるっていうのも」
ゴドー「そっか。そうなのか……じゃ、また、今度電話するよ」
ウラジミール「いや、もう電話もしない」
ゴドー「ええ? それはなに?」
ウラジミール「だって、待ってるのに、また電話って言われても」
ゴドー「じゃ、どうしたらいいんだよ?」
ウラジミール「だから一回来てみるとか」
ゴドー「今は無理」
ウラジミール「だったら、電話でいいから。来るのか来ないのかだけでもだけでも」
ゴドー「しつこいなあ……だからわからないって」
ウラジミール「じゃ、来る努力だけでもしてみてくれよ」
ゴドー「努力か……」
ウラジミール「そうしたら俺も普通にしてる。待ってるとか言わない」
ゴドー「うん、じゃ、努力してみるよ」
ウラジミール「ありがとう」

間。

ゴドー「ふふふ。聞いてくれよ。この前、面白いことがあって。俺がエストラゴンと待合せしてた時にね……」
ウラジミール「待って。だからなんの話?」
ゴドー「普通に楽しい話を……」
ウラジミール「いや、そんな話してる場合じゃないだろ? 努力をさ……」
ゴドー「してるよ」
ウラジミール「ええ?」
ゴドー「そんなさ、努力ったってすぐには無理だよ」
ウラジミール「でもね、いい? とにかく俺は待ってるわけ。で、普通に話してるのはいいんだけどさ、いつかお前が来ると分かってるなら俺だって聞いてられる。だけど来ないかも知れないなら、そんな話は聞いてられないんだよ」
ゴドー「……ひどい。ひどいな。天秤にかけるのか?」
ウラジミール「え?」
ゴドー「俺が行かないなら話も聞けないって……そんな、そんな条件つけて……」
ウラジミール「待ってくれよ」
ゴドー「ひどい。お前がそんなやつだとは思わなかったよ、信用してたのに」
ウラジミール「いや、もちろん、話は話で聞く。けど、俺がここで立ってなくちゃいけない状況にあることも理解してくれよ」
ゴドー「それは理解してる」
ウラジミール「だったら、来てくれたらいいだろ?」
ゴドー「だからそれはもう話しただろ?」
ウラジミール「なんか、なんか違うよ。今、お前が来るつもりないことはわかってる。でもね、来ることに向けて努力だけでもしてくれたら、俺は普通にしてられるんだよ」
ゴドー「努力って、なにをしたらいいんだ?」
ウラジミール「来る気になるような、なんかだよ」
ゴドー「そんなの気分の問題なんだから、努力でどうにかなるもんでもないだろ?」
ウラジミール「は?」
ゴドー「無理だよ」
ウラジミール「話が違うだろ? さっき努力するって言ったろ?」
ゴドー「だからこうして話してる」
ウラジミール「これ、努力?」
ゴドー「まあ、そうかな」
ウラジミール「頑張って話してるの?」
ゴドー「いや、まあ、話すのは嫌じゃないよ。こうしてお前と話してるのは楽しいし」
ウラジミール「だったらとにかく来てくれれば……」
ゴドー「それとこれとは違うんだよ。行くのはちょっとなあ」
ウラジミール「え? だったら、絶対に来ないってことだな?」
ゴドー「それは、だから、誰にもわからないって」
ウラジミール「俺、どうしてたらいいの?」
ゴドー「だから待たずに、普通に……」
ウラジミール「……無理なんだよ。いいか? 一度、俺は待ってしまったんだよ。俺だって来なきゃよかったと思ってる。俺がここにこなかったら、もしかしたらお前がここに来て、俺を待ったのかも知れない」
ゴドー「まあな」
ウラジミール「だけどな、一回、待ってしまったんだよ、俺。そうしたら待つしかないだろ?
それを終わらせるにはさ、お前が来るか、それとも待合せがなかったことにするかしか方法ないんだよ」
ゴドー「……」
ウラジミール「わかるか?」
ゴドー「まあ、わからないでもないけど」
ウラジミール「そんなに来たくないのか?」

ゴドーは珍しく暗い声で、

ゴドー「……俺、エストラゴンと待合せしてたんだよ。で、実際、そこには行った。自分から待合せ場所に行ったんだよ」
ウラジミール「……知ってるよ」
ゴドー「でも、そこから帰ってきたばかりなんだ。疲れてるんだ。だから今は行きたくないんだよ、実際の話が」

間。

ウラジミール「……いいよ。だったら待合せはなかったことにしよう」
ゴドー「また脅しか?」
ウラジミール「違うよ。俺も待ちたくない。そして俺だって待たれてたりするかも知れない」
ゴドー「じゃ、俺を待つのはやめて、お前がそこに行けばいいんじゃないか?」
ウラジミール「そういう話じゃないだろ? それにそんなことお前が言うことじゃない」
ゴドー「そう?」
ウラジミール「そうだろ? これは俺とお前の問題なんだから」
ゴドー「……うんんんんん……」
ウラジミール「簡単なことなんだよ。来る気が少しでもあるなら俺は待つ。いや、待っている感じすら見せず普通に立ってる。でも、絶対に来ないなら待合せ自体をないものにするし、ゴドーを待ちながら何かをするという、その行為自体とさようならをする」
ゴドー「(笑って)大げさな言い方して」
ウラジミール「大げさじゃないよ……」
ゴドー「いったい、俺はどうしたらいいんだよ?」
ウラジミール「だから……もうわかるだろ?」
ゴドー「わからないから聞いてるんだよ」
ウラジミール「 取り敢えず来てくれよ」
ゴドー「取り敢えずでなんて行けないよ。行く気にならないと」
ウラジミール「……」
ゴドー「……悪かったよ。電話切るよ」
ウラジミール「切ってどうなる?」
ゴドー「どうもならない」
ウラジミール「俺は?」
ゴドー「知らない。元気にしててくれ」
ウラジミール「元気に? どうやって?」
ゴドー「また、電話するから」
ウラジミール「その電話は今から行くとかそういう?」
ゴドー「そういうのじゃ……ないかもな」
ウラジミール「その間俺は?」
ゴドー「だから普通にしててくれよ」
ウラジミール「でも普通にしてるためにはさ……着替えくらいしてくれるとか……出かける素振りくらいはさ」
ゴドー「同じ話だろ?」
ウラジミール「同じ話なんだよ。でも、なにも解決してないんだよ」
ゴドー「……わかったよ」
ウラジミール「なにが?」
ゴドー「考えてみる」
ウラジミール「なにを?」

と、聞いた時には電話が切れているようだ。

ウラジミールは……立っている。
もう自信に満ちた表情はどこにもない。

(続く)
posted by 土田英生 at 02:02| 京都 ☀| 遊び | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ゴドーとの電話(2)

ウラジミールは帰ろうとするが、また戻ってくる。
電話が鳴る。

ウラジミール「もしもし」
ゴドー「まだいるの?」
ウラジミール「……迷ってる」
ゴドー「そっか」
ウラジミール「え? なに? くる気になったのか?」
ゴドー「いや」
ウラジミール「だったらなんで?」
ゴドー「退屈だろうから、楽しい話でもしようと思って」
ウラジミール「あのさ……」
ゴドー「退屈だろ?」
ウラジミール「そりゃそうだよ」
ゴドー「そこは寒くないか?」
ウラジミール「寒いよ」
ゴドー「大丈夫か?」
ウラジミール「なんだよ。なんでそんなに気を使ってくれるんだよ?」
ゴドー「そりゃ心配だからさ」
ウラジミール「……だったら来てくれよ」
ゴドー「出たよ。また、それか? こっちかせっかく心配してやってるのに、どうしてそればかり言うんだよ?」
ウラジミール「だって来てくれたら、電車に乗ってさ、一緒に暖かい場所も行けるんだよ」
ゴドー「……いや、行くのは無理だよ」
ウラジミール「どうして?」
ゴドー「その気になれないからさ」
ウラジミール「だったら電話なんかしてくるなよ」
ゴドー「わかったよ。こっちは心配して電話してやってるのに。そんな風に言うなら電話もしないよ」
ウラジミール「……」
ゴドー「そうするよ。切るよ」
ウラジミール「え? でもさ、くる気になる可能性はどうなんだ?」
ゴドー「何度も言ってるだろ? ゼロじゃないし、そんなことは誰にもわからない。ふと、行きたくなるかもしれないし。でも、お前がそれを聞いてくる度に俺の行く気はどんどんなくなるんだよ」
ウラジミール「じゃ、黙って待ってたらいいのか?」
ゴドー「そう。普通にな」
ウラジミール「普通ってなんだよ?」
ゴドー「だから、お前はそこで楽しんでもらって、で、時々こうして電話でしゃべっていよう」
ウラジミール「……」
ゴドー「お前だって喋るのは嫌いじゃないんだろ? ほら、なんというか、俺とお前はこうして喋ると相性もいいし」
ウラジミール「だけど寒いんだよ、ここ」
ゴドー「なんか着たらどうだ?」
ウラジミール「ないよ、なんにも」
ゴドー「そっか……それは辛いな。風邪ひかないようにな」
ウラジミール「だけど、ほら、来てくれたら解決するんだよ」
ゴドー「あ! また、言った」
ウラジミール「だってそうだろ? わかった。じゃ、こうしよう。来るのは来てくれ。でも、電車に乗るかどうかはそこで決めればいいだろ?」
ゴドー「駅に行ったら電車に乗ることになるだろ?」
ウラジミール「そんなのはお前の自由だよ」
ゴドー「おいおい。俺をまるめこむのはやめてくれよ。駅まで行って電車にのらないなんてこと、ないだろ? お前、絶対に俺を電車に乗せようとするよ」
ウラジミール「しない」
ゴドー「信じられないね」
ウラジミール「……」
ゴドー「それに……駅まで行った時には俺も電車に乗るよ」
ウラジミール「わかった。譲歩するよ。今、なにしてる?」
ゴドー「楽しくお前と話してる」
ウラジミール「いや、電話する前は?」
ゴドー「まあ、わりと退屈なしてたかな」
ウラジミール「退屈だったの?」
ゴドー「まあな」
ウラジミール「着替えたりは?」
ゴドー「してない」
ウラジミール「せめて時刻表を調べてみたり」
ゴドー「(笑って )そんなことするかよ」
ウラジミール「じゃ、出かけるとしたら、あの服着ようとは考えたりしてみた?」
ゴドー「どうだろうなあ。それくらいは考えたかもしれない」

間。

ウラジミール「俺、思うんだけど」
ゴドー「なに?」
ウラジミール「来る気はないよな?」
ゴドー「今はな」
ウラジミール「この先は?」
ゴドー「だからさ……」
ウラジミール「わからないんだよな? そんなことは」
ゴドー「その通りだよ」

ウラジミールは深呼吸して、

ウラジミール「俺、帰る」
ゴドー「え?」
ウラジミール「もうゴドーを待つのはやめる」
ゴドー「そっか。そりゃそうだよな。そこは寒いだろうし、俺がお前でも辛いだろうなと思うよ」
ウラジミール「じゃ、そうするよ」
ゴドー「わかった。また、電話するわ」
ウラジミール「……あの、それも全部なしだ」
ゴドー「電話も?」
ウラジミール「うん」
ゴドー「一回も?」
ウラジミール「金輪際だ」
ゴドー「まあ、それは仕方ないけど……そんなことできるか?」
ウラジミール「そうしないとしないと俺はこの寒い駅でいつまでも立ってることになるだろ?」
ゴドー「それは理解できるよ。でも、電話までやめるっていうのはなんなんだよ?」
ウラジミール「俺のプライドだ」
ゴドー「え?」
ウラジミール「そうだろ? 待合せしてだ。いや、お前はそのつもりじゃなかったと言うけど、とにかく俺は駅で待ってた。でもすっぽかされたんだよ。なのに電話で楽しい話だけするなんて無理だろ」
ゴドー「すっぽかしてはないよ」
ウラジミール「すっぽかしただろ?」
ゴドー「今は行く気になれないって言っただけだろ?」
ウラジミール「それはすっぽかしたってことなんだよ」
ゴドー「なんだよ、それ」
ウラジミール「じゃ、電話切るからな」
ゴドー「ああ……」

ウラジミールは電話を切る。
そして思い切り伸びをする。
そして帰っていく。

しかし……しばらくするとまた戻ってくる。

(続く)
posted by 土田英生 at 18:56| 京都 ☀| 遊び | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ゴドーとの電話(3)

しばらくウラジミールは行ったり来たりする。
そして自分から電話をする。

ウラジミール「もしもし」
ゴドー「あれ? もう電話もしないんじゃなかったのか?」
ウラジミール「……冷静に考えたんだよ。いい方法がある」
ゴドー「なんだよ?」
ウラジミール「え? お前もあれだろ? その、こうして電話はしたいんだよな?」
ゴドー「まあな」
ウラジミール「しかも……ゼロではない?」
ゴドー「なにが?」
ウラジミール「お前が駅に来る可能性」
ゴドー「ああ。そんなことはわからないからな」
ウラジミール「だとしたらだ。その、一回、『今から行くよ』と言ってくれないか?」
ゴドー「は?」
ウラジミール「今、お前は来たくない。それはわかってる。だからお前がな『今から行くよ』と言う、そしたら『俺が来なくていいよ』と言う」
ゴドー「なんだそりゃ?」
ウラジミール「そしたら俺はお前がくる気なんだと安心するし、お前も来なくて済むし一石二鳥だろ?」
ゴドー「嘘をつけってことか?」
ウラジミール「嘘っていうなよ。段取りだよ」
ゴドー「そのことになんの意味がある?」
ウラジミール「俺が待たされただけだという、その惨めさから俺は解放される」
ゴドー「行かなくていいんだな?」
ウラジミール「うん」
ゴドー「言うだけでいいんだな?」
ウラジミール「そうだ」
ゴドー「わかったよ。あの……今からさ」
ウラジミール「うん」
ゴドー「そっちへ行くよ」
ウラジミール「本当か?」
ゴドー「いや、本当ではない」
ウラジミール「待てよ! それを言うなよ」
ゴドー「ええ?」
ウラジミール「お前はあくまでも行くと言い続けないと」
ゴドー「だけど実際には俺は行かないんだから」
ウラジミール「……いくら段取りだからって、そんなにあからさまにネタバラシされたら、俺は惨めから解放されるどころか、さらに辛いだろ?」
ゴドー「そうなのか?」
ウラジミール「そういうもんだよ。だからさ、お前はあくまでも来ようとする。そしたら俺がこなくていいと言うから」
ゴドー「わかった」
ウラジミール「ほら」
ゴドー「ああ。あのさ、今から行くよ」
ウラジミール「本当か?」
ゴドー「本当だ」
ウラジミール「来る気になってくれたのか?」
ゴドー「あ、まあ」
ウラジミール「どうして急に?」
ゴドー「いや、それは……なんとなく」
ウラジミール「いや、嬉しいよ。待った甲斐があったよ」
ゴドー「待ってくれ。あの、ほら」
ウラジミール「え?」
ゴドー「俺、本当にはいかないからな」
ウラジミール「……」
ゴドー「え? だろ?」
ウラジミール「だから最後まで言い通してくれよ」
ゴドー「お前がいつまでも言わないから、来なくていいって」
ウラジミール「リアリティだろ?」
ゴドー「もう面倒くさいよ」
ウラジミール「それくらい付き合ってくれたっていいだろ?」
ゴドー「……」
ウラジミール「随分、譲歩した提案なんだから」
ゴドー「ううんんんん……」
ウラジミール「ま、それも嫌ならいいよ」
ゴドー「嫌じゃないけど、だいたい、お前が勝手に待ってるんだからさ」

ウラジミールはため息をつく。

ウラジミール「……そもそもの話になるけど、どうして俺が待ってるのか? 最初はエストラゴンと一緒に待ってた。でも、あいつは別の駅で待つと言い出した。だから俺たちは一人で待つことになった」
ゴドー「ああ」
ウラジミール「知ってるよ。エストラゴンにはお前が待っててくれと言ったんだろ?」
ゴドー「そうだ」
ウラジミール「で、お前はそこに行った」
ゴドー「うん」
ウラジミール「でも、電車には乗らなかった」
ゴドー「ま、ちょっとした諍いもあってな。それで俺は帰ってきた。随分と疲れて帰ってきた。もう誰かと待ち合わせるのは二度とごめんだとすら思ったよ」
ウラジミール「……その時電話くれただろ?」
ゴドー「したな」
ウラジミール「で、お前は言ったんだよ。エストラゴンとは電車には乗っていけない。けど、お前とはこれからも色んな意味で一緒だしなって」
ゴドー「言ったか?」
ウラジミール「言ったよ。だから、だから俺は待ってるんだよ」
ゴドー「待合せしようとは言ってないだろ?」
ウラジミール「そうだけど、あれは、ほら、待合せしてもいいという雰囲気だったよ」
ゴドー「お前は俺のせいで待ってると言いたいのか?」
(続く)

posted by 土田英生 at 20:29| 京都 ☀| 遊び | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする