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MONO代表・土田英生のブログです

2008年09月25日

地球がひっくり返るらしい

 バタバタしている。
 一つは取りあえず書き上がったが、まだやることは山積している。
 
 そして明日からは東京。
 しかしバタバタしている場合ではないのかも知れない。
 こんなことしていても無駄なのかも知れない。
 なぜなら……。

 この前タクシーに乗っていた時だ。

 喋り好きな運転手さんだという気配は感じていた。
 しかし私は疲れていたので黙っていた。
 元気な時ならきっかけを作ってあげるのだが、私にそんな元気はなかった。
 静かに乗って、早く家に帰りたかった。

『今日は……おかしな天気でした』
 
 いきなり運転手さんは切り出した。
 「ああ、来た……始まってしまった」と思った。
 私は仕方なく『ええ』と答える。

『雨が急に降ったりして……これは……温暖化ですよ。地球の異常ですよ』

 『ええ』と短く私は返事をした。
 
  運転手さんは一人でうなずき、続けた。

『もう地球は終わりですね。何とかせんと。これは何とかせんと』

 その通りかも知れない。
 しかし私は疲れていた。
 また『ええ』と短い返答を返した。それ以上、話を膨らましたくなかった。

 運転手さんはしばらくまた一人でうなづいていた。
 そして大きな声で言った。

『私はね、こう思ってるんです。きっと、今、地球は傾いて来ていると』

 ……ん? 
 何かの比喩だろうか? それとも地軸でも傾いて来ていると言いたいのだろうか?
 しかし分からないので私は『ええ』と短く答えた。
 
 運転手さんは満足そうにうなずく。ルームミラー越しに私の表情を伺っている。
 そして続けた。

『段々ね、地球が傾いて来てるんですよ。絶対そうなんです。なんかね、最近ね、斜めになってると感じるんです』

 疲れながらも私は質問したい衝動にかられた。
 斜めになってる? どういう意味だろう?
 しかし私はまたしても『はあ』と短く答えた。もう少し我慢すれば家に着く。

 しかしだ。
 運転手さんは信じられないことを言った。

『最近、歩いてても私ね、時々、あ、斜めになってるなあって思うんです』

 私は……我慢出来なくなった。
 そしてついに喋ってしまった。

『もし、万が一、地球が傾いてたとしても、私達自身は斜めだとは感じられないですよね?』

 運転手さんは私を無視した。
 しばらく黙っていた。
 そして急に私に食ってかかるように言い放った。

『いや、感じますよ。地球は斜めになってます。このまま行ったらひっくり返るんじゃないかなあ。このままだとね、そのウチ、人間は放り出されますよ、ハハハ』

 私は自分に言い聞かせた。
 『ええ』と適当な相づちを打てと。
 出来れば「ハハハ」と私も笑えと。
 しかしやはり我慢出来なかった。

『引力ありますし……地球に上も下もないですし……』

 私はやんわりと言った。
 運転手さんはすぐに反応した。

『いやいや、お客さん、うちにはね、地球儀もありますからね。北極が上でしょう? 日本も上の方にありますからいいんですけど……これ以上傾いたら、放り出されますよ』

 私の疲れは消えていた。
 黙ってはいられない。
 
『もし、そうならオーストラリアにいる人なんか、逆さまに立ってることになっちゃいますし……赤道付近の人なんか横向いて立ってることになっちゃいますからねえ』

 運転手さんは小さく『あああ』と呻いた。
 そして不思議そうに言った。

『そうですなあ。あれ、あっちの人はどうしてるんですかねえ?』

 私は困った。
 どう喋ればいいんだろう?

『上とか下っていうのは、地球の引力に対してですから、オーストラリアの人もちゃんと上を向いて立ってる訳ですから……』

 運転手さんは黙った。
 いや、完全に私を無視してそのまま車を走らせた。
 そして私の家の近くまで来た。

 と、また運転手さんは言った。

『だけど私は思います。後、何十年かすると地球がひっくり返って……私達は放り出されますよ』

 私は……。
 何か言おうと思ったが、再び疲れが襲って来た。
 だから言った。

『怖いですねえ。放り出されるのは……』

 運転手さんは満足そうだった。
 
『そりゃ、怖いですよ。放り出されたら……死にますから……』
 
 私は小さい声で『ええ、死にますね』と答えた。
posted by 土田英生 at 05:16| 京都 ☀| 雑記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする