空港で荷物を詰め替える時にパソコンを思い切り床に叩きつけるように落としてしまった。ババーンと大きな音が響く。
やや慌てたがそんなことは何でもない。
結構しっかりしたケースにも入れているし、これくらいの衝撃で私のMacは壊れない。そんなことでダメになるヤツじゃない。ちゃんと私のそういう性格くらい知ってくれているヤツなのだ。私とこいつの蜜月はそんなに簡単に駄目にはならない。
そしてホテルにチェックインした。写真のホテルだ。
パディントンの駅からも近い。パディントンベアのパディントンだ。最初は必ず英語で綴りを間違えてしまうパディントンだ。Paddington。
で、部屋に入ってMacを机に置く。
……起動出来ない。
何度やっても起動しない。
見たことのないマークが出るだけで全く動いてくれない。
ああああ、落としたからだ。
『あんなことくらいでダメになる俺たちじゃないだろう?』
と、別れ話だったら言ってみたい気分だった。
私は落ち着けと自分に言い聞かせた。
で、タバコを吸いたかったが、部屋を禁煙の部屋にしているので外まで行かなければならない。更に私の部屋は入口からとても遠い。避難経路の地図を見てもちょっとだけ迷う。で、パソコンを中途半端な状態にして、更には少し迷って、外でタバコを吸った。……寒い。とても寒い。
で、部屋に戻って来たが……やはりMacはダメだ。
パソコンのバッテリーなどを一旦外して、元に戻す。しかしこんなことやってもダメに決まっている。これまでに見たことのないくらいの無反応ぶりなのだ。
時々『おいおいおどかすなよ』と言いたくなるくらいの反抗は示す私のMacだが、ここまで無反応なのは初めてだ。
『え? 本当にもう俺たちダメなの?』と言いたくなるくらいの態度なのだ。
もう諦めた。
諦めたのだ。
ロンドンで君は俺と別れると言うんだね?
だったら仕方ない。
俺はしつこくないからね。
しかし……万が一と思い、もう一度だけ起動してみる。
しかも『お願い』と大きな声で言ったりした。
……動いた。
私は本当に呟いた。
『もう、おどかすなよ』と。
さて、今はまだ夜の8時前。
パソコンも動いたことだし、今から近くのパブにでも行って来よう。