しかし私の記憶では、本番の観客席とパソコン画面しか記憶がない。
吉祥寺に空はあったのか?
智恵子は東京には空はないという。
私にもなかった。
名古屋に移動しても同じだ。
高校の時から好きだったはずの栄の広い空を見上げた記憶がない。
女子大小路のネオンにも縁がなかった。
劇場では楽屋に、終わればホテルにこもって台本と格闘していたからだ。
大阪に寄って映画『初夜と蓮根』の撮影に顔を出したかったんだが、それもかなわず……。
北九州でも一昨日にチェックインしてからご飯を食べる以外は、ずっとホテルの部屋にこもっていた。
途中で金替がホットドックの差し入れを持って来てくれた。
優しい男だ。
私は涙目でホットドックをかじりながら、とにかくキーを打っていた。
もう不健康極まりない。
そして今日の朝。
なんとか終わりまで書いた。
3時間はぐっすり眠った。
今日、北九州公演。
タイトルは「少しはみ出て殴られた」。
昨年『空と私のあいだ』に出演してくれた、女優の吉川莉早ちゃん。
彼女は現在東京にいるので、吉祥寺に観に来てくれたのだが、その前にくれたメール。
「殴ったと思ったら殴られてた」楽しみにしています!
大きく間違っている。
ま、これはこれで悪くないタイトルだ。
なんだろ? すごく駄目なボクサーかなんかの話だろうか?
だって、ジャブ、ジャブ、ストレート、はははは、殴ってやったぜ。
え? うそ、殴られてたのは俺?
いつかそんな話も考えてみよう。
私のつけるタイトルはどうも間違えられるのだ。
その筆頭は『その鉄塔に男たちはいるという』だ。
大体は「あの鉄塔」になったり、「男たちがいた」と断定的になったりする。
長いので仕方ない
そういう意味では吉川莉早を誰も責められない。
『なるべく派手な服を着る』も、控え目さがなくなって『すごく派手な服を着る』と間違われたりしたし。
しかし長さだけが原因ではない。
『約三十の嘘』も「約十三の瞳』と書かれたことがある。
どうも二十四の瞳とくっついたようだ。
しかも「約」というわりに「十三」って、全然アバウトじゃない気がするんだけど。
『京都11区』も『京都23区』とよく言われるし、 『きゅうりの花』を『なすの花』と言われたこともあった。
……脱線が長くなった。
目覚めてすぐにホテルの部屋のカーテンをあけた。
ああ、いかにも北九州の空という感じだけどね。
久しぶりに空を見た気がする。
晴れとるっちゃねえ。


