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MONO代表・土田英生のブログです

2016年11月17日

出会った二人の女性

 姫路のホテルにいる。
 明日は早い。
 なのでベッドに入った……けれど、眠れない。
 分かってはいる。
 こういう時はじっとしていればいい。
 けれど、私は……落ち着きがない。
 それでも30分以上は頑張った。

 結局、起きだしてコンビニに行ってしまった。
 ウイスキーを買ってきた。
 ちょっとだけ飲んで眠ろうという作戦だ。アーモンドとチョコレートはある。
 
 ……どうでもいいことを書いて眠ろう。
 よし、今日、私と出会った二人の女性についてだ。


 姫路までの新幹線は比較的空いていた。
 私はA席だった。
 つまり3列席の一番窓側だ。
 BもCも空席で誰もいない。
 だからのんびりだ。
 品川駅で買ったシュウマイ弁当が崎陽軒のではなかったことに驚き、しかし食べてみたら予想より美味しくて喜び、食べたら眠たくなったので30分くらい眠り、起きてから車内販売でコーヒーを買い、ノートを広げた。
 
 MONOの新作の人物相関図を書いた。
 時々、新幹線が揺れるので、関係があったらだめな二人が線でつながってしまったりしたが、それでも結構はかどった。こうなったら姫路に着くまでにこれは完成させようと思った。
 相関図が決まると、途端に話は進むのだ。

 名古屋に着いても隣には誰も乗ってこない。
 考えるのに疲れて、喫煙コーナーに行こうと思った……その時だ。
 車掌さんが「ここになります」と女性を案内してきた。
 スーツケースに、鞄が一つ、それにパンパンに膨らんだエコバックと、さらにお土産っぽい紙袋を持っている。彼女はC席だ。
 私は「上にあげるの手伝いましょうか?」
 と、声をかけた。
 
「いや、ここに置くのでいいです」

 と、爽やかな笑顔でBに荷物を置き、さらにその前にスーツケースを置いた。
 私は完全にふさがれてしまった。
 まるで要塞ではないか。
 これでは私はトイレにも行けない。
 なので「あ、上あげますよ」
 もう一度言ってみた。
 彼女はまたしても爽やかに笑って、

「いいですよ。あ、通る時はおっしゃってください」

 なぜか笑顔がとても自然だ。

「いや、あの喫煙コーナーにも行ったりしますので」

 私はささやかな抵抗を試みた。
 と……。

「ああ、大丈夫です。私も行きますから」

 そう言って彼女は座っている。
 人間は不条理に弱い。
 私は意味がわからなかったが、とっさに「そうですか」と言って引き下がってしまった。
 どういうことだろう?
 喫煙コーナーに私が行きたい時、彼女も行くということなのか?
 私は諦めてじっとしていた。
 彼女はお弁当を食べ、そして……しっかり眠った。
 ああ。もう私はカゴの中の鳥だ。
 
 相関図を書くのは止まってしまった。
 アイデアが煮詰まった時、そのためのタバコなのだ。
 私は昔、禁煙に成功した。
 その状態で台本を1本書いた。内容が浅い気がした。
 まあ、それは言い訳だと思うが、タバコを吸いながら塾考する時間がなかったせいだと思った。
 
 新幹線は京都に着いた。
 まだ彼女は眠っている。
 
 ……諦めて私も眠った。

 目がさめると彼女はいなかった。
 荷物だけがあった。
 どうやら喫煙コーナーに行っているらしい。
 私は今なら出られると思ったが、どうも動く気がしなかった。
 かといって、もう書く気も起こらない。
 ……それにしても彼女は全く戻ってこない。
 戻ってきたのは新神戸をすぎてからだ。
 30分くらい経っている。
 そして戻ってくると、私を見てなぜか微笑んだ。
 さらに鞄をゴソゴソして、「食べてください」と、私にチョコレートを差し出した。
 とても自然な笑顔だった。
 ……。

 姫路に着いてホテルにチェックインする時、応対してくれたのはベテランの風情を醸し出している女性だった。
 しかし……声が小さいのだ。
 雰囲気だけは手馴れているのに何を言っているのか全く聞き取れない。

「……でございます……ふにゅふにゅ……」

 けれど、予想はできるので私は名前を記入したりした。

「……1階の……して……から……9時まで……す」

 聞こえないが、朝食について教えてくれているのだろう。
 私はうなずいていた。
 と……。

「あ、もうし訳……ん……ほん…………すか?」

 何かを私に聞いた。
「はい?」私は聞き返した。

「ほん……ちゅう……は……すか?」

「え?」と、も一度聞き返した。

「あの……本日……ちゅう……は……すか?」

 ……本当に聞こえないのだ。
 仕方ないので「あの、なんでしょうか?」と聞き返した。
 すると、今度は驚くような声で

「本日、駐車場のご利用はございますかっ?」

 と非常に大きな声で質問された。

「ありません!」と、つられて私は大きな声で答えてしまった。

 さっき……眠れずにベッドから出て、コンビニに行こうと思った。
 真っ暗なフロントには、あの彼女が一人でいた。
 大きなホテルなのでロビーも広い。
 暗い中、そこだけが明るい。

「コンビニ行ってくるだけなんですけど、カギ預けた方がいいですか?」

 と、私は通る時に聞いてみた。

「……す……は」

 聞き取れなかった。
 なので、そのまま通り過ぎようとしたら。

「あ、お預けに!」

 と、急に彼女の大きな声がロビーに響いた。
 私はなぜか動悸を激しくしながらカギを預けた。
 で、だ。
 コンビニに行っていた時間は5分だ。
 戻ってきて、私はフロントにいた彼女に会釈した。
 それは当然、カギをもらうためだ。
 彼女は笑って私を見た。
 私はうなずいた。
 ……カギが出てこない。

「いや、あの……」

 と、私が言うと、

「いかが……たか?」

 聞き取りにくいが、「いかがいたしましたか?」と聞いている。
 
「いやあ、カギを……」

 もちろんちゃんと言わなかった私も悪いが、流れからして当然覚えていてくれていると思ったのだ。
 さっきもいたのは私だけ。
 今も私だけだ。

「お……ごうを?」

 お部屋番号と言っているらしい。
 私が番号を告げると、なぜか困ったような顔になって、変な間があった。
 やがて気がついたようにカギを持ってきて、そして、なぜか、もう一度元に戻り、何かをじっと見てから、

「……ださまですか?」

 私はもう読心術が身につき初めていた。

「土田です!」

 私の声が暗いロビーに響き渡った。

 では眠る。
posted by 土田英生 at 02:07| 兵庫 ☀| 雑記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする