表紙に戻る
MONO代表・土田英生のブログです

2016年12月11日

お土産

 大阪に行っていたのは、出演の仕事があったからだ。
 こんな忙しい時に何をやっているのだという人もいたが、私は表に出ることが大好きなのだ。
 だから無理やりスケジュールを入れてもらった。

 けど、いろいろと忘れていた訳ではない。
 前日もホテルで遅くまで戯曲を読んでいた。

 これは戯曲賞の審査の為だ。
 結局、朝方まで読んでいた。
 全部で16本もあったのだ。審査を引き受けた二つの戯曲賞が同じ時期に重なってしまった為だ。

 一通りは全て読んでいた。
 けれど、それだけではダメなのだ。

 私は戯曲賞に落ち続けてきた。
 待つ身だった私は「ええ? ちゃんと読んでるのかよ」と、不満を持ったりしていた。
 だから自分が審査する側になった時はちゃんと読もうと思っていた。
 まあ、みなさん、私の書いたものもちゃんと読んでくれていたんだろうけどね。
 その上で落ちてたわけだし、不満を持つのも筋違いだったんだと思うけど。

 けど、候補に残って待っている方は分かんないものなのだ。
 その本がどう評価されるのかは。
 賞なんていらないや、ヘンと思っていてもやっぱり気になるしね。

 ……初めて岸田戯曲賞の最終候補になった時だ。
 作品は「きゅうりの花」だったと思う。
 住んでいた出町柳のアパートで私は夕方から部屋にいた。
 結果が出たら家に電話がかかってくることになっていたのだ。
 その頃、私は野良猫たちの面倒を見ていた。
 一番私に懐いている猫は「吉田さん」という名前だった。他にも「神田さん」「北山さん」など、たくさんの猫が私の部屋に遊びにきていた。

 吉田さんは私の膝に乗っていた。
 電話を待つ私は落ち着かず、ずっと吉田さんを撫でていた。
 気持ちがいいのか、吉田さんはずっとゴロゴロと喉を鳴らしていた。

 結局、電話がかかってきたのは4時間くらい経ってからだった。

『残念ですが、今年は……』

 という落選の電話だった。
 しかしだ。
 ふと、吉田さんを見て私は驚いた。

 もう、どこの高級な猫かというくらい、毛並みがいい。
 誰が見ても野良猫だとは思わなかっただろう。
 そりゃそうだ。
 緊張して手に汗をかき、その手で4時間も撫でていたのだ。
 艶のある毛並み。
 戯曲賞には落ちたけど、トップブリーダーとして表彰して欲しかったくらいだ。

 いやいや、なんの想い出話だよ。

 寝不足の状態で出演の仕事をし、東京に戻った。

 先月から知り合いを集めて合間にワークショップをしているのだが、昨日の夜もやっているはずだった。
 事前にテキストを渡してあり、メンバーは台詞を入れる日にしてあった。
 私は行けないと伝えていたのだが、下北沢に戻ってきたらまだやってる時間だったので顔を出した。
 参加したものの頭が回らない。
 
 終わってからご飯を食べようと思い皆を誘った。
 時間がないのはわかっているが、本当に毎日余裕がなく、少しだけでも発散したかった。
 もちろんお酒などを飲むつもりはない。
 
 ……皆に断られた。

 「いいよ、いいよ、俺も遊んでいる訳にはいかないし」と、明るい声で言ったつもりだったのだが……よほど、私が惨めに思えたんだろうね。駅に向かう帰り道で、一人が付き合ってくれると言い出し、私も1時間ならいいですよと別の人が言い出し……。

 ただ、お金は持っていなかったようだ。
 一人は1000円、一人は700円、もう一人が500円らしい。
 駄菓子屋にでも行けば、かなり贅沢できそうだけどね。

 結局、私を含めて4人で居酒屋に入った。

 もちろん、飲まない。
 ご飯を食べるだけなのだ。
 だいたい、この日は知り合いが忘年会を開いていて、私も当初はそこに参加しようとしていたのだが、大阪での仕事もあったし、余裕がなくなったので断っていたのだ。

 でもねえ。
 全く飲まないというのもねえ。

 ……ビールを少しだけ飲んだ。
 もっと飲みたくなったが、周りが止めてくれた。
 
 今日は15時の便で札幌へ向かうことになっていたので、13時頃に事務所を出た。
 リュックはパンパンだ。
 着替えなどの他に、北海道戯曲賞の候補作、劇作家新人戯曲賞の候補作、それから隙間を見つけてやるはずだった仕事の資料。
 だから重たい。
 まるで今から登山でもするかのような状態だ。
 けれど、仕方ないのだ。
 明日の朝、札幌で審査会に出て、東京に戻って夕方からは劇作家協会新人戯曲賞の公開審査に出るというおかしな状況になっていたのだ。
 審査会のダブルヘッダーは私も初めての経験だ。

 明日の飛行機だけが心配だった。
 東京に戻ってこれなかったらどうなるんだろう?

 そんなことを考えながら羽田に向かった。

 ……そんな私の認識が甘かった。
 羽田では札幌に向けて飛ぶはずの飛行機が雪の為に見合わせ中だった。
 問題は今日だったのか……。
 
 けれど、チェックインもでき、保安検査場も通って搭乗口まで行き、乗り込むのを待つだけの状態にはなった。

 欠航が決まったのは15時。
 慌てて札幌に電話をする。
 一緒に審査をする長田育江さんは昼過ぎに飛び立ったらしいが、札幌上空で引き返して羽田に戻っているらしい。けれど、彼女も便を変更してもう一度向かう予定だという。
 なので、私もカウンターに戻って他の便を探した。

 20時出発の飛行機が取れた。
 これでなんとか札幌には向える。
 けれど羽田で5時間も時間ができてしまった。

 仕方ない。
 カフェで仕事だ。
 羽田にいるのも何だかなあと思い、浜松町に移動してみた。

 で、17時頃。
 明日の審査会は中止になった。
 他の審査員も辿り着けないので、別日にやる方向になったらしい。

 ……払い戻しの手続きをして下北沢に戻ることになった。

 けれど、ただ戻るのは悔しい。
 今日という1日を棒に振った気がする。

 全く必要のない文房具を買った。
 短い定規とか、小さい糊とか。
 何に使うんだろう?
 
 けれど、そんなことはいい。
 私は羽田に遊びに来たのだ。
 だからお土産なのだ。
 どうせなら飛行機のおもちゃとか買えばよかった。

 しかし、これで明日、高円寺には遅刻する不安はなくなった。
 カフェでは切羽詰まった仕事をする気分になれなかった。
 宮崎に書いている『板子乗降臨』はラストが残っているが、そんな大事な部分をここで済ます訳にはいかない。

 なのでメモ用紙にMONO『ハテノウタ』のアイデアを書いたりしてみた。
 一つ思いついたが……あれは使えないだろうなあ。

 そうだ。
 『ハテノウタ』の仮チラシというのか、第一弾というのか、それが先日事務所に届いた。
 いつも描いてもらっている川崎君のイラストも載っているが、まだ着色はされていない。
 本チラシというのか、第二弾というか……それには完成したイラストが印刷される予定だ。

hatenouta01omote.jpg


hatenouta02ura.jpg
posted by 土田英生 at 00:38| 東京 ☀| 雑記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする