表紙に戻る
MONO代表・土田英生のブログです

2017年08月11日

たまには愚痴じゃないことを

 いつも愚痴ばかり書いているという印象があるらしいので、今日は陽気に行ってみよう。
 美味しいものを食べ、帰ってきてからヒンヤリする入浴剤を入れたお風呂に長く浸かり、そしてハイボールを飲んでいるので楽しいことが書ける気がする。

 「きゅうりの花」の東京公演は終了。
 「土田英生セレクション」という、とても申し訳ない気分になる名前の企画もこれで4回目だ。5回目もある……と、思うけど……どうなんだろう。
 「きゅうりの花」はおかげさまで評判もよく……いや、きっとツマラナかった人たちは何も言わずに帰って行くだけなのではっきりは言えないけど、無事に11ステージを終了。

 明日から大阪公演。MONOでもいつも使わせていただいているABCホール。
 
 今日は仕込みだった。
 私は夕方に舞台チェックに行くことになっていた。

 しかしだ。

 その前に私には済ませなければいけないミッションがあった。

 いきなりになるが、私にはとても苦手なことがある。
 だらしないのか、なんなのか……ちょっとしたことが出来ない。
 洗濯とか掃除とか、そんなことはあまり苦にならない。
 問題は……例えばハガキや手紙を出すとか、そういうことがどうしてもパッと済ませられないのだ。
 だいたい、出そうと思ってから3日くらいかかって、やっと手紙などを書く。しかしここからが難関だ。切手も貼る。住所も書く。しかし……それがいつまでも机の上に置いてあったりするのだ。
 で、今日こそ出そうと思ってカバンに入れると、それから一週間くらいカバンに入ったままだったりする。

 ポストに入れる時はだいたい、シワシワになり、妙にアンティークな手紙になったりする。

 私事になるけど、私には今年の4月、ちょっとした転機があった。
 まあ、その、簡単に言ってしまえば一人になった。

 で……ここからがミッションの始まりなのだが……。

 京都の家にはいろいろな支払いの振込用紙などが溜まっていた。税金や保険、年金などの封筒が山のようにある。

 しっかり見ればわかるはずなのだが、どうしてもそれが処理出来ない。
 これまでこうしたことを全く自分でやってこなかったツケだ。

 5月はしばらく京都にいたのだが、その間にもそれが済ませらなかった。
 なので、とにかく全部袋に入れて東京に持って行った。

 「きゅうりの花」の稽古期間、ずっと気になっていた。

 毎朝決心はしていたのだ。

 「今日こそ払おう!」

 そう思って袋から大量の封書を出し、じっくり見てみる。
 中には支払い期限が切れているものあり、コンビニなどでは払えないと書いてある。
 「あああ、嫌だもん」と名古屋弁で独りごちて結局袋に戻す。

 その繰り返しだった。

 その袋は私と一緒に京都に戻ってきてしまった。

 一念発起!

 銀行に向かった。東京公演の時、楽屋でそのことについて喋っていたら、お弁当を食べている金替君が「銀行なら払えると思いますよ」と優しいふにゃふにゃとした言い方で教えてくれたからだ。

 iPhoneにインディージョーンズのテーマ曲を入れ、大音量で聴きながら向かった。
 
 受付番号の票を取る。273番。
 「……じゅうさんばんの方」
 あ、私だ。
 そう思って勇んで窓口に行ってみたら聞き違いだった。
 その間違いを二回した。
 やっと私の番になった。
 窓口のお姉さんはすでに笑っていた。

「やっと順番になりましたね。お待たせして申し訳ありません」

 優しい口調だ。
 すでに私は泣きそうだった。

「今日はどのような御用件で?」

 私は袋から大量の封書を出し、ドサッと置いた。
 そして一気に説明をした。

「いや、本当は、あの、もっと簡潔に済ませらることだと思うんですけど、実は、4月にその私はあの……それで、今まで任せてきてしまっていたので、本当、こんなことじゃダメだと思うんですけど、しかしですね」

 最後には私は涙声になっていた。

「大丈夫でございますよ。一緒に整理しましょう」

 女神だ……。
 桂駅の近くに女神がいたとは。
 阪急電車で嵐山から3区間という近い場所に女神はいたのだ。

 彼女は根気よく、全部整理して、支払いを手伝ってくれた。
 そして最後に彼女は付け加えた。

「いつでもお困りの時はいらしてくださいね」

 もう、これから困ったら女神に会いに行こう。

 そんなこんなで、偉大なる女神のおかげで大きなミッションは終わった。
 銀行を出る時の私は誇らしげな表情をしていたと思う。

 そんな状態だったので、劇場に行って舞台チェックも寛大だった。
 普段なら「あそこのパネルをもっと傾けてくれ」とか「あの照明が目立ちすぎる」とか細々言うのだが、今日はどうも気にならない。
 スタッフの皆に対しても「いい! オッケー! お疲れ様です!」という感じだった。

 劇場を出て、私は淀屋橋に向かった。
 そこには東京組が宿泊しているホテルがある。
 そこで先乗りしていた加藤啓君、内田淳子さんと待ち合わせをしてしゃぶしゃぶを食べた。
 豚しゃぶなのだが、一人用の鍋でそれぞれが食べるのだ。

IMG_6782.jpg


 美味しかった。
 途中で柿喰う客の七味まゆ味さんも顔を出した。

IMG_6780.jpg


 七味さんはすぐに帰り、店を出る頃、千葉さんが到着したという連絡があった。
 なので四人で今度はカレー屋さんに行った。
 どんだけ食べるねん、という感じだ。

IMG_6791.jpg


 で、私は一人京都に帰ってきた。
 けれどその時、グループLINEに神田君がホテルに着いたという連絡があった。
 と……啓くんが「神田君、ご飯食べた? 食べてなかったら付き合うよ」と返信している。
 神田君も「行きたいです」と返信していた。

 おそるべし加藤啓だ。
 しゃぶしゃぶ、カレー、更に何を食べるというのだろうか?

 ……明日は本番だし、朝も早いのでもうやめて眠ろうと思ったが、神田君の話が出たのでもう少し書こう。

 彼は23歳。イケメンのナイスガイだ。
 事務所に入って、つまり俳優業を初めてまだ半年。
 これまでには一回だけアンサンブルの出演があるだけだ。
 だから実質、この「きゅうりの花」が初舞台になる。
 そう考えると……いやあ、本当に立派だ。
 ちゃんと芝居も出来ているし、本番に入ってからもどんどんよくなっている。
 
IMG_6750.jpg
 

 写真は……諏訪君にきゅうり柄の手ぬぐいをもらって嬉しそうにしている神田君。
 楽屋の鏡前にはメイク道具などで汚さないように手ぬぐいを敷くのが通例になっているのだが、神田君はそれを知らなかった。すると諏訪君が休演日に買ってきてあげたのだ。

 そんなかわいい神田君だが……。
 まあ、稽古の最初は……さすがに全然ダメだった。
 台詞も歌ってしまって聞こえないし、動くと身体はバラバラになるし、人の台詞に反応も出来ていなかった。
 
 けれど、私は余裕だった。「できる」と判断した役者は絶対に大丈夫なのだ。

 私なりに順番を考えた。
 最初の一週間は台詞をフラットに言うことだけしか言わなかった。
 次の週になって、反応の説明をした。
 立ち稽古になってからも動きは変だったが、だんだんと芝居に馴染んできた。
 で、通し稽古になってから、動きのことを伝え、更に最後の稽古でやっと感情の話をした。いや、感情じゃないね、流れだね。
 彼は見事だったねえ。どんどん吸収して行くし。
 大阪ではもっと化ける可能性もある。楽しみだ。

 もちろん彼の成長は彼自身の能力と頑張りによるものが大きいけれど、下手な演出の仕方をすればダメになってしまう可能性もあったと思う。

 前にとある稽古場を見学した時だった。
 
 その演出家は出来ていない役者に向かって、延々と「そこどういう気持ちでやってる?」などと聞いていた。
 役者も役者で「こんな気持ちでやっています」とか答えている。
 おいおいと思った。
 そんな稽古では絶対に役者は伸びない。
 
 だいたい、表情とか感情についてどうこうってさ……。
 表情も感情も、演技の結果「役者から出てくるもの」であって「意識して出す」もんじゃない。
 演出家がそうしたいのなら、そうなるように段取りを組むのが仕事なのだ。

 さらにその稽古場では演出家が延々喋っていた。
 「あそこのシーンではどう」とか、「ここでは表情がどうなっている」とか。
 だからそれは結果だし、ただの感想にすぎない。演出家は観客じゃないんだからねえ。
 「ダメ出し」は演出家が感想をいう場ではないしね。

 まあ、私も喋るんだよねえ。
 ほとんど無駄話だけど。中学時代の初恋エピソードとか。
 これは必要ない。だから改めないとな。

 稽古でもっとも大事なことは、身体に馴染ませる機会をいかに役者さんたちに与えられるかだと思っている。
 段取りを組んで、なんどもやってみる。すると役者さんたちは自分でモチベーションを見つけ始める。全ての行動や台詞がモチベーションで埋まってくると、その結果、感情が出てくるものなのだ。

 それにそんなにたくさんの話をしたって、役者さんが処理出来ないし。
 私はどんなベテランの役者さんに対しても1日5つ以上はダメを出さないように心がけている。
 ちなみに神田君には3つにしようと決めていた。
 順番に、ワンステップずつ、問題をクリアにして行けばいいのだ。

 結果、彼は本番の中で舞台を生き、すると私の想像を超えた表情を見せたりしてくれているのだ。

 そんな「きゅうりの花」は明日からですので、皆様お待ちしています。
 チラシをクリックすると特設サイトに飛びます!
 
IMG_0101.jpg
 

 
posted by 土田英生 at 01:18| 京都 ☁| 雑記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする