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MONO代表・土田英生のブログです

2018年10月29日

ゴドーとの電話(2)

ウラジミールは帰ろうとするが、また戻ってくる。
電話が鳴る。

ウラジミール「もしもし」
ゴドー「まだいるの?」
ウラジミール「……迷ってる」
ゴドー「そっか」
ウラジミール「え? なに? くる気になったのか?」
ゴドー「いや」
ウラジミール「だったらなんで?」
ゴドー「退屈だろうから、楽しい話でもしようと思って」
ウラジミール「あのさ……」
ゴドー「退屈だろ?」
ウラジミール「そりゃそうだよ」
ゴドー「そこは寒くないか?」
ウラジミール「寒いよ」
ゴドー「大丈夫か?」
ウラジミール「なんだよ。なんでそんなに気を使ってくれるんだよ?」
ゴドー「そりゃ心配だからさ」
ウラジミール「……だったら来てくれよ」
ゴドー「出たよ。また、それか? こっちかせっかく心配してやってるのに、どうしてそればかり言うんだよ?」
ウラジミール「だって来てくれたら、電車に乗ってさ、一緒に暖かい場所も行けるんだよ」
ゴドー「……いや、行くのは無理だよ」
ウラジミール「どうして?」
ゴドー「その気になれないからさ」
ウラジミール「だったら電話なんかしてくるなよ」
ゴドー「わかったよ。こっちは心配して電話してやってるのに。そんな風に言うなら電話もしないよ」
ウラジミール「……」
ゴドー「そうするよ。切るよ」
ウラジミール「え? でもさ、くる気になる可能性はどうなんだ?」
ゴドー「何度も言ってるだろ? ゼロじゃないし、そんなことは誰にもわからない。ふと、行きたくなるかもしれないし。でも、お前がそれを聞いてくる度に俺の行く気はどんどんなくなるんだよ」
ウラジミール「じゃ、黙って待ってたらいいのか?」
ゴドー「そう。普通にな」
ウラジミール「普通ってなんだよ?」
ゴドー「だから、お前はそこで楽しんでもらって、で、時々こうして電話でしゃべっていよう」
ウラジミール「……」
ゴドー「お前だって喋るのは嫌いじゃないんだろ? ほら、なんというか、俺とお前はこうして喋ると相性もいいし」
ウラジミール「だけど寒いんだよ、ここ」
ゴドー「なんか着たらどうだ?」
ウラジミール「ないよ、なんにも」
ゴドー「そっか……それは辛いな。風邪ひかないようにな」
ウラジミール「だけど、ほら、来てくれたら解決するんだよ」
ゴドー「あ! また、言った」
ウラジミール「だってそうだろ? わかった。じゃ、こうしよう。来るのは来てくれ。でも、電車に乗るかどうかはそこで決めればいいだろ?」
ゴドー「駅に行ったら電車に乗ることになるだろ?」
ウラジミール「そんなのはお前の自由だよ」
ゴドー「おいおい。俺をまるめこむのはやめてくれよ。駅まで行って電車にのらないなんてこと、ないだろ? お前、絶対に俺を電車に乗せようとするよ」
ウラジミール「しない」
ゴドー「信じられないね」
ウラジミール「……」
ゴドー「それに……駅まで行った時には俺も電車に乗るよ」
ウラジミール「わかった。譲歩するよ。今、なにしてる?」
ゴドー「楽しくお前と話してる」
ウラジミール「いや、電話する前は?」
ゴドー「まあ、わりと退屈なしてたかな」
ウラジミール「退屈だったの?」
ゴドー「まあな」
ウラジミール「着替えたりは?」
ゴドー「してない」
ウラジミール「せめて時刻表を調べてみたり」
ゴドー「(笑って )そんなことするかよ」
ウラジミール「じゃ、出かけるとしたら、あの服着ようとは考えたりしてみた?」
ゴドー「どうだろうなあ。それくらいは考えたかもしれない」

間。

ウラジミール「俺、思うんだけど」
ゴドー「なに?」
ウラジミール「来る気はないよな?」
ゴドー「今はな」
ウラジミール「この先は?」
ゴドー「だからさ……」
ウラジミール「わからないんだよな? そんなことは」
ゴドー「その通りだよ」

ウラジミールは深呼吸して、

ウラジミール「俺、帰る」
ゴドー「え?」
ウラジミール「もうゴドーを待つのはやめる」
ゴドー「そっか。そりゃそうだよな。そこは寒いだろうし、俺がお前でも辛いだろうなと思うよ」
ウラジミール「じゃ、そうするよ」
ゴドー「わかった。また、電話するわ」
ウラジミール「……あの、それも全部なしだ」
ゴドー「電話も?」
ウラジミール「うん」
ゴドー「一回も?」
ウラジミール「金輪際だ」
ゴドー「まあ、それは仕方ないけど……そんなことできるか?」
ウラジミール「そうしないとしないと俺はこの寒い駅でいつまでも立ってることになるだろ?」
ゴドー「それは理解できるよ。でも、電話までやめるっていうのはなんなんだよ?」
ウラジミール「俺のプライドだ」
ゴドー「え?」
ウラジミール「そうだろ? 待合せしてだ。いや、お前はそのつもりじゃなかったと言うけど、とにかく俺は駅で待ってた。でもすっぽかされたんだよ。なのに電話で楽しい話だけするなんて無理だろ」
ゴドー「すっぽかしてはないよ」
ウラジミール「すっぽかしただろ?」
ゴドー「今は行く気になれないって言っただけだろ?」
ウラジミール「それはすっぽかしたってことなんだよ」
ゴドー「なんだよ、それ」
ウラジミール「じゃ、電話切るからな」
ゴドー「ああ……」

ウラジミールは電話を切る。
そして思い切り伸びをする。
そして帰っていく。

しかし……しばらくするとまた戻ってくる。

(続く)
posted by 土田英生 at 18:56| 京都 ☀| 遊び | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする