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MONO代表・土田英生のブログです

2018年10月29日

ゴドーとの電話(3)

しばらくウラジミールは行ったり来たりする。
そして自分から電話をする。

ウラジミール「もしもし」
ゴドー「あれ? もう電話もしないんじゃなかったのか?」
ウラジミール「……冷静に考えたんだよ。いい方法がある」
ゴドー「なんだよ?」
ウラジミール「え? お前もあれだろ? その、こうして電話はしたいんだよな?」
ゴドー「まあな」
ウラジミール「しかも……ゼロではない?」
ゴドー「なにが?」
ウラジミール「お前が駅に来る可能性」
ゴドー「ああ。そんなことはわからないからな」
ウラジミール「だとしたらだ。その、一回、『今から行くよ』と言ってくれないか?」
ゴドー「は?」
ウラジミール「今、お前は来たくない。それはわかってる。だからお前がな『今から行くよ』と言う、そしたら『俺が来なくていいよ』と言う」
ゴドー「なんだそりゃ?」
ウラジミール「そしたら俺はお前がくる気なんだと安心するし、お前も来なくて済むし一石二鳥だろ?」
ゴドー「嘘をつけってことか?」
ウラジミール「嘘っていうなよ。段取りだよ」
ゴドー「そのことになんの意味がある?」
ウラジミール「俺が待たされただけだという、その惨めさから俺は解放される」
ゴドー「行かなくていいんだな?」
ウラジミール「うん」
ゴドー「言うだけでいいんだな?」
ウラジミール「そうだ」
ゴドー「わかったよ。あの……今からさ」
ウラジミール「うん」
ゴドー「そっちへ行くよ」
ウラジミール「本当か?」
ゴドー「いや、本当ではない」
ウラジミール「待てよ! それを言うなよ」
ゴドー「ええ?」
ウラジミール「お前はあくまでも行くと言い続けないと」
ゴドー「だけど実際には俺は行かないんだから」
ウラジミール「……いくら段取りだからって、そんなにあからさまにネタバラシされたら、俺は惨めから解放されるどころか、さらに辛いだろ?」
ゴドー「そうなのか?」
ウラジミール「そういうもんだよ。だからさ、お前はあくまでも来ようとする。そしたら俺がこなくていいと言うから」
ゴドー「わかった」
ウラジミール「ほら」
ゴドー「ああ。あのさ、今から行くよ」
ウラジミール「本当か?」
ゴドー「本当だ」
ウラジミール「来る気になってくれたのか?」
ゴドー「あ、まあ」
ウラジミール「どうして急に?」
ゴドー「いや、それは……なんとなく」
ウラジミール「いや、嬉しいよ。待った甲斐があったよ」
ゴドー「待ってくれ。あの、ほら」
ウラジミール「え?」
ゴドー「俺、本当にはいかないからな」
ウラジミール「……」
ゴドー「え? だろ?」
ウラジミール「だから最後まで言い通してくれよ」
ゴドー「お前がいつまでも言わないから、来なくていいって」
ウラジミール「リアリティだろ?」
ゴドー「もう面倒くさいよ」
ウラジミール「それくらい付き合ってくれたっていいだろ?」
ゴドー「……」
ウラジミール「随分、譲歩した提案なんだから」
ゴドー「ううんんんん……」
ウラジミール「ま、それも嫌ならいいよ」
ゴドー「嫌じゃないけど、だいたい、お前が勝手に待ってるんだからさ」

ウラジミールはため息をつく。

ウラジミール「……そもそもの話になるけど、どうして俺が待ってるのか? 最初はエストラゴンと一緒に待ってた。でも、あいつは別の駅で待つと言い出した。だから俺たちは一人で待つことになった」
ゴドー「ああ」
ウラジミール「知ってるよ。エストラゴンにはお前が待っててくれと言ったんだろ?」
ゴドー「そうだ」
ウラジミール「で、お前はそこに行った」
ゴドー「うん」
ウラジミール「でも、電車には乗らなかった」
ゴドー「ま、ちょっとした諍いもあってな。それで俺は帰ってきた。随分と疲れて帰ってきた。もう誰かと待ち合わせるのは二度とごめんだとすら思ったよ」
ウラジミール「……その時電話くれただろ?」
ゴドー「したな」
ウラジミール「で、お前は言ったんだよ。エストラゴンとは電車には乗っていけない。けど、お前とはこれからも色んな意味で一緒だしなって」
ゴドー「言ったか?」
ウラジミール「言ったよ。だから、だから俺は待ってるんだよ」
ゴドー「待合せしようとは言ってないだろ?」
ウラジミール「そうだけど、あれは、ほら、待合せしてもいいという雰囲気だったよ」
ゴドー「お前は俺のせいで待ってると言いたいのか?」
(続く)

posted by 土田英生 at 20:29| 京都 ☀| 遊び | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする